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2019.01.24 16:00  マネーポストWEB

第2の「消えた年金」問題も発生、年金減額16年の歴史とカラクリ

2003年以降、厚労省「年金減額」の流れ


 厚労省の毎月勤労統計の調査不正は、第2の「消えた年金」問題と呼ばれる──。統計調査の内容やデータを変えて平均賃金を低く見せかけた結果、国民が受け取る失業給付や労災の遺族・障害年金、介護休業給付などが数百億円も減らされ、追加支給が必要になった。被害者は延べ2000万人にのぼる。

 12年前、2007年の「消えた年金」問題では、厚労省と旧社会保険庁のずさんな年金行政で5000万件を超える年金保険料の納付記録が消され、年金が支払われないままになっていることが発覚した。それに怒った国民が年金事務所に殺到し、第一次安倍政権を揺るがす事態となった。

 これまでに約3000万件が判明、総額1兆6000億円の未払い年金が追加支給されたが、未だ2000万件の記録が特定されていない。なぜ、厚労省で巨額の未払いが繰り返されるのか。実は、「第1」も「第2」も問題の病巣は同じだ。

 厚労省は国民生活に直結する多くの統計調査を実施し、役人がつくりあげた複雑な計算式の数字を少し変えるだけで年金や医療費、失業保険などの社会保障給付、いわば国民に払う“命のカネ”をいかようにも増減できる権限を持つ。そうした数字の操作こそが、この役所の力の源泉であり、それが「消えた年金」や数々のデータ改竄など数々の不祥事を生んできた。

◆「保険料だけ」上げられた

 今回の統計不正が始まったのは2004年からだ。当時、失業者は過去最高の110万人を超え、厚生年金の保険料収入は落ち込み、国民年金の未納率は4割に達していた。失業保険の積立金も底をついて社会保障制度全体が崩壊寸前だった。

 厚労省が失業保険より先に手を付けたのは年金だった。時の小泉内閣が「100年安心」を掲げて年金改革に乗り出すと、同省は制度を複雑に作り替え、年金の計算式を変更し、データの数字も変えていく。

 前年の2003年には、年金に「総報酬制」が導入された。それまでサラリーマンの厚生年金の保険料と受給額は月給で計算されていたが、ボーナスを含めた「総報酬」で計算する方法に変更し、年金額を大きく引き下げたのである。

 厚生年金の受給額は〈給料×乗率×年金加入月数〉という計算式で算定される。この乗率を変えるだけで年金額はどうにでも増減できる。総報酬制の導入にあたって乗率は1000分の7.125から同5.481に引き下げられ、この年以降の厚生年金加入期間の年金額はなんと25%も減額されることになった。

 暴動が起きても不思議ではないほどの大幅カットだが、政府は同時に保険料率を17.35%から13.58%に引き下げ、国民に「ボーナスを含め計算し直しただけで、保険料も年金額も変わらない」と説明した。

 ところが、その翌年、国民は騙されたことに気づかされる。総報酬制の実施後、政府はいったん引き下げた保険料を18.3%まで段階的に引き上げることを決めたからだ。国民が気づいた時には年金減額と保険料アップのダブルパンチとなった。

 味をしめた厚労省では、このタイミングから毎月勤労統計の調査不正を進めてきた。

◆「減らす」ための計算式

 なぜ厚労省は平均賃金を低く見せかけたかったのか。平均賃金は失業給付だけではなく、年金とも関係している。年金額は、「賃金スライド」と呼ばれる平均賃金の変化で調整され、賃金の伸びが低くなれば抑えられる。この計算式も2004年の年金改正で決められた。

 厚労省年金局年金課は、「年金の賃金スライドの計算と勤労統計とは全くリンクしていない。今回の不正調査問題が年金の保険料や支給額に影響を与えることは全くありません」と言うが、実は、年金額のもとになる平均賃金の算出方法は勤労統計以上の“ブラックボックス”なのだ。

 社会保険労務士でもあり、年金数理に詳しい第一生命経済研究所経済調査部の星野卓也・副主任エコノミストが語る。

「そもそも年金計算における賃金は『前年の物価上昇率』、『実質賃金変動率』、そして『可処分所得割合変化率』という調査の方法も時期も違う3つのデータを組み合わせて算出されています」

 細かい説明は省くが、計算結果を見ると、複雑極まりない算出を施す狙いが浮かび上がる。

 勤労統計では「賃金上昇」が続いていた期間でさえも、「年金額のベースとなる賃金」はなぜかマイナスになっているのだ。その結果、年金額は低く抑えられていた。

◆今年から「新・減額装置」が発動

 その後も年金改革のたびに減額するカラクリが盛り込まれてきた。最も大きいのはマクロ経済スライドによる計算式の変更だ。

 これは年金受給者やこれから受給する新規裁定者の年金額を改定する際、年金生活者が困らないように賃金の伸びや物価上昇に応じて年金額を増やす従来の計算式に「スライド調整率」という数値を加味することで、逆に年金額を毎年目減りさせていく仕組みだ。

 2004年の年金改正で導入されたが、物価が下がっている年は年金額を減らさずに据え置かれてきた。それを厚労省は「もらいすぎ年金」(特例水準)と呼んで批判し、2012年の年金改正で「特例水準の解消」を名目に年金額を2.5%引き下げた。

 さらに2016年の年金改正では、物価下落で発動できなかった年の「スライド調整率」を毎年持ち越し、物価が上昇したときにまとめて精算させて国民の年金をいっぺんに減額(目減り)させるキャリーオーバー制度を導入した。今年から実施が見込まれている。

 前出の星野氏は、こうした度重なる制度変更の結果、2018年度の年金受給世帯の実質年金給付は2012年度より6%下がる見込みと試算している。

「このうち3%分は年金特例水準の解消による減額と15年のマクロ経済スライドの発動によって年金の実質額が目減りしたものですが、残りの3%分は年金改定の複雑な計算式によるものです。消費税増税による物価上昇でも年金額が上がらない仕組みがあり、その結果、年金額が実質目減りしていると考えられます」(星野氏)

 とはいえ、これまでは賃金上昇率がマイナスになっても年金の改定率はゼロで据え置かれてきたため、年金の支給額が額面で下がることはなかった。だが、2021年からは賃金や物価が下がれば、年金額そのものが引き下げられるようになる。

※週刊ポスト2019年2月1日号

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