ライフ

当代随一の人気歌人、東直子と穂村弘対話集『しびれる短歌』

歌人で小説家の東直子さん(撮影/藤岡雅樹)

【著者に訊け】東直子さん/『しびれる短歌』/筑摩書房/907円

【本の内容】
〈短歌を作るのは楽しいけど、うまくいかないと苦しい。短歌を詠むのは楽しいけど、慣れないと難しい。無条件に楽しいのは短歌について話すこと。というわけで、友だちの歌人、東直子さんとあれこれ語り合ってみました〉と、穂村弘さんは「まえがき」の冒頭に記した。2人が持ち寄る短歌は、扱うテーマも表現も実に幅広い。ニヤニヤしながら読めて、ムクムクと創作意欲が湧いてくる。

 穂村弘さんとの対談形式で、新旧のさまざまな歌を紹介しながら短歌の世界へと誘う。恋の歌、食べ物の歌、時間やお金の歌など、テーマに沿って選ばれた歌は時代をとらえ、鮮やかに映し出す。

「『今回は恋の歌を集めよう』などと決めて、何度かに分けて話したので、結構、時間がかかっています。『トリッキーな歌』も集めたし、編集者の要望で『歌人ってどうやってなるの?』という話もして、いろんな角度で楽しんでもらえたら、と思いながら作った本です」

「恋の歌」の中で紹介されるのはたとえばこんな歌。

したあとの朝日はだるい 自転車に撤去予告の赤紙は揺れ
岡崎 裕美子

 おそらくはセックスの後で、女性が感じているのは、恋の喜び、高揚感とはほど遠い。

「われわれの若い時は、若さイコール恋の歌という感じでしたが、いまは若いからといって必ずしも恋を歌うわけではない。現実のシビアさだったり、高揚ではなく平熱の歌だったりしますね」

たぶん親の収入超せない僕たちがペットボトルを補充してゆく
山田 航

 現実より素敵に表現してしまう「素敵バイアス」はこれまで名歌を名歌たらしめてきたが、現代的な目で見直すと、作者の気取りや自己陶酔に映ることも。新聞歌壇の選者としてアマチュアの歌にも日常的に触れている2人は、投稿歌も先輩歌人の歌も同じ視線で、その歌ならではの面白さを紹介、時に辛口の批評もする。

「平成のはじめに短歌を始めた穂村さんも私も、過渡期にいたんですね。文語旧かなの歌の良さも味わいつつ、口語短歌の新しい可能性を広げていった。両方が見える場所にいるのかなと思います」

 ウィキペディアの記述で偶然、五七五七七になる部分を取り出したもの、数式だけのこんな歌も。

(7×7+4÷2)÷3=17
杉田 抱僕

 どう読むか、わかりますか?

◆取材・構成/佐久間文子

※女性セブン2019年2月21日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

NBAレイカーズの試合観戦に訪れた大谷翔平と真美子さん(AFP=時事)
《真美子夫人との誕生日デートが話題》大谷翔平が夫婦まるごと高い好感度を維持できるワケ「腕時計は8万円SEIKO」「誕生日プレゼントは実用性重視」  
NEWSポストセブン
被害者の村上隆一さんの自宅。死因は失血死だった
《売春させ、売り上げが落ちると制裁》宮城・柴田町男性殺害 被害者の長男の妻を頂点とした“売春・美人局グループ”の壮絶手口
NEWSポストセブン
元夫の親友と授かり再婚をした古閑美保(時事通信フォト)
女子ゴルフ・古閑美保が“元夫の親友”と授かり再婚 過去の路上ハグで“略奪愛”疑惑浮上するもきっぱり否定、けじめをつけた上で交際に発展
女性セブン
突然の「非常戒厳」は、国際社会にも衝撃を与えた
韓国・尹錫悦大統領の戒厳令は妻を守るためだったのか「占い師の囁きで大統領府移転を指示」「株価操作」「高級バッグ授受」…噴出する数々の疑惑
女性セブン
12月9日に亡くなった小倉智昭さん
小倉智昭さん、新たながんが見つかる度に口にしていた“初期対応”への後悔 「どうして膀胱を全部取るという選択をしなかったのか…」
女性セブン
六代目山口組の司忍組長。今年刊行された「山口組新報」では82歳の誕生日を祝う記事が掲載されていた
《山口組の「事始め式」》定番のカラオケで歌う曲は…平成最大の“ラブソング”を熱唱、昭和歌謡ばかりじゃないヤクザの「気になるセットリスト」
NEWSポストセブン
激痩せが心配されている高橋真麻(ブログより)
《元フジアナ・高橋真麻》「骨と皮だけ…」相次ぐ“激やせ報道”に所属事務所社長が回答「スーパー元気です」
NEWSポストセブン
無罪判決に涙を流した須藤早貴被告
《紀州のドン・ファン元妻に涙の無罪判決》「真摯に裁判を受けている感じがした」“米津玄師似”の男性裁判員が語った須藤早貴被告の印象 過去公判では被告を「質問攻め」
NEWSポストセブン
トンボをはじめとした生物分野への興味関心が強いそうだ(2023年9月、東京・港区。撮影/JMPA)
《倍率3倍を勝ち抜いた》悠仁さま「合格」の背景に“筑波チーム” 推薦書類を作成した校長も筑波大出身、筑附高に大学教員が続々
NEWSポストセブン
12月6日に急逝した中山美穂さん
《追悼》中山美穂さん、芸能界きっての酒豪だった 妹・中山忍と通っていた焼肉店店主は「健康に気を使われていて、野菜もまんべんなく召し上がっていた」
女性セブン
結婚披露宴での板野友美とヤクルト高橋奎二選手
板野友美&ヤクルト高橋奎二夫妻の結婚披露宴 村上宗隆選手や松本まりかなど豪華メンバーが大勢出席するも、AKB48“神7”は前田敦子のみ出席で再集結ならず
女性セブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
【入浴中の不慮の事故、沈黙守るワイルド恋人】中山美穂さん、最後の交際相手は「9歳年下」「大好きな音楽活動でわかりあえる」一緒に立つはずだったビルボード
NEWSポストセブン