「たったひとりの落語家の話をじーっと2時間半も、飲み食いなしに聴いてくれる観客のことを考えたら、劇場やホールに落語のための空間をこしらえることが、とても大切だと感じましたね。落語が広い空間に負けないためには、音響、照明、美術といった劇場の専門スタッフの力がとても重要になります。『座布団一枚と屏風があればいいんだろう』と思われてきましたが、いまは、空間とスタッフと演者、三位一体にならないと、広い空間でやれないし、やる意味がない。大きけりゃいいってもんじゃありませんから」
志の輔が900人もの客をひきつけるのは、時事ネタを巧みに取り込むマクラの面白さ、噺の運び、丁寧さだけでなく、会場の空気をも自分のものとしているからだ。全国の劇場やホールを最も知り抜いた落語家へのオファーが途切れるはずもない。
こうして365日のほとんどを落語に捧げながらも、24年間続く『ガッテン!』(NHK、毎週水曜19時30分~)の司会やラジオのパーソナリティなどの仕事も間隙をぬってくる。
そんな中、今年はさらに大きな仕事が加わった。動物写真家・岩合光昭氏の初監督映画『ねことじいちゃん』(2月22日公開)で主演に抜擢されたのだ。妻に先立たれ猫のタマと小島でのどかに暮らす老人役だ。
「オチや笑いがないといられない落語家の私が、穏やかな日常の中の、猫と人間の暮らしの機微を演じられないだろうと思ってお断わりしたのですが、岩合光昭監督の再三再四のオファーにとうとう根負け。顔合わせのときに共演者の柴咲コウさんが『これ、猫の映画ですよね』とさらっと言ったのを聞いて(笑い)。その時、そうか猫の見事な脇役になってやれ、と思えたんです」
そして、1か月に及ぶロケを終えた志の輔は、思わぬ感想を抱く。