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2019.02.20 15:30  BOOK STAND

【「嬉し涙の作品が好き」〜映画プロデューサー、李鳳宇の映画観】VOL.45 李鳳宇さん(映画プロデューサー)

提供:WEB本の雑誌


『シュリ』(2000年)、『JSA』(2001年)をヒットさせ、韓流ブームの火付け役と呼ばれる李鳳宇映画プロデューサー。『パッチギ!』(2005年)や『フラガール』(2006年)では映画賞を様々受賞し、2017年には『リングサイド・ストーリー』で脚本・製作総指揮を務めるなど、アジアを舞台に活躍の場を広げています。そんな李プロデューサーが影響を受けた映画とは?最新作『あの日のオルガン』の公開を控えた李さんに、映画作りのことや好きな映画のことなど、たっぷりお話を伺いました!

—-2月22日に公開される『あの日のオルガン』では、エグゼクティブ・プロデューサーを務めていらっしゃいます。どんな作品に仕上がっていますか?
李鳳宇プロデューサー(以下、李):太平洋戦争末期、戦火を避けるため、東京や大阪など大都市を中心に国内各所で「疎開」が実施されました。このお話は、東京都品川区戸越の保育士たちが埼玉県蓮田市(当時平野村)の妙楽寺へ、園児たち53人を連れて疎開した事実を描いています。3月10日の東京大空襲では10万人もの人々が亡くなられましたが、若い保育士さんたちは53人の子供たちの命を救いました。たった53人かと言われる方もいらっしゃるでしょうが、僕は53人の子供たちが救われたという事実と、それをやり遂げたのが20代の若い保母さんたちだったという、彼女等の逞しさや健気さに感動しました。大袈裟ですが、日本版『シンドラーのリスト』(1993年、アメリカ)だと思っています。

映画『あの日のオルガン』より

—-当時の保母さんと子供たちは、今でも交流が続いているそうですね。
李:「人を信用する」ということが難しい今の時代の中で、彼らの交流を知って強く感じるものがあります。先生といっても当時園児だった彼等は覚えていないかもしれない。でも命を救ってくれた保母のことを冷静に考えてみると、先生と生徒という立場ではなく、もはや「恩人」ですよね。疎開した子供たちの親は大空襲のせいで、もしくは出征して亡くなってしまった方も多かったから、保母たちとの出会いは奇跡のような偶然だったはずです。

—-李さんはプロデューサーという立場ですが、どのように作品を作っていきましたか?
李:他の映画もそうですが、まずはシナリオと予算から決めていきます。そして監督、カメラ、美術と一歩一歩決めていくわけですね。今回の映画の場合、シナリオと監督を平松(恵美子)さんに決めたことが大きかったですね。この映画は保母さん、つまり女性がたくさん出てくるので、そういう人たちと向き合える人がいいと思って女性監督の映画であるべきだと考えました。平松さんとは『さよなら、クロ』(2003年)という作品で一緒に仕事したこともあって、早い段階から彼女に対する絶対的な信頼から映画がスタートしました。結果、私の予想を遥かに超えたとても愛らしい素敵な作品を完成させてくれました。

映画『あの日のオルガン』より

—-作品作りにおいて、大変だったことはありましたか?
李:一番困ったことは子役選びですかね。3歳から8歳の子供たちが出演してくれていますが、劇団で演技を覚えた子だと、当時の園児に見えるだろうかという疑問があったので、 “リアルな子供”を探して、かなり広範囲にオーディションを行いました。それと、戦時中の話をいかにリアルに撮影するかという点も課題でした。今回は松竹撮影所と京都丹波という地方で撮影をしていますが、とても良い風景が再現できたと自負しています。ああいう土手や川辺はなかなか見つけ難い時代ですが、ロケ探索も映画撮影の大事な要素ですよね。

映画『あの日のオルガン』より

—-ずばり、作品の最大の見どころはどこでしょうか。
李:見所はたくさんありますが、個人的にはエンディングでしょうか。シナリオを読んだときに、最初に浮かんだのが主題歌になった、アン・サリーさんが歌う「満月の夕(ゆうべ)」という曲なんです。この曲が流れるエンディングは観客に様々な感慨を残すと思います。映画では描かれていませんが、保母さんや子供たちは、疎開が終わって東京に戻ると、焼け野原になった東京を目の当たりにして絶望すると思います。ただその絶望から立ち上がる勇気も同時に与えてくれるのが「満月の夕」です。実はこの曲は、阪神大震災の時に生まれた曲なんですが今も歌い継がれています。この映画のテーマである「命を繋ぐ」というメッセージが静かに心に響くと思います。

—-ストーリーが素晴らしいので、これはどのシーンも見逃せないですね。ところで、李プロデューサーはどんな映画が好きなんですか?
李:人生で一番好きな映画は、フランク・キャプラ監督の『素晴らしき哉、人生!』(1946年、アメリカ)です。毎年12月25日に観る映画なんですが、誰かとこの映画を観るっていう儀式を繰り返して来ました。クリスマスは家族や恋人や夫婦の繋がりを再確認する日ですが、この作品は「家族の絆」とか「人生の意味」といった古臭いけど本質的なことを考えさせてくれる素晴らしい映画です。

—-好きなジャンルはありますか?
李:嬉し泣きの映画が好きですね。人情落語が好きということもありますが、自分自身、常にストーリーに於いても、そんなドラマに惹かれます。人間だけが嬉しくて泣けるわけじゃないですか。もちろん人は猫が死んでも彼氏に振られても泣けますが、悲しみだけの涙よりも嬉し涙は尊いと思います。誰かを勇気付けられる、そんな映画が好きですね。

—-影響を受けた映画はありますか?
李:いっぱいありますが、クシシュトフ・キェシロフスキというポーランドの映画監督にはすごく影響を受けました。初めて配給した『アマチュア』が彼の映画です。実際に彼に会いに行ってみようと思ってポーランドへ行ったこともあります。残念ながら彼は55歳で亡くなってしまったんですが、彼の音楽監督のプレイスネルや主演俳優のイエジ・スツールに会ったり、パリに留学している娘さんに会ったりとして、彼のような人間、彼が残したような映画がどうしたら出来るのかを暫く探していた時期がありました。その過程で彼の映画作りとか、ものの見方には影響を受けたと思います。

—-最後に、今後の展望をお聞かせください。
李:日本映画という枠を超えて、国境を超えて映画を作ると言うと痴がましい。インターネットとAIの発展で映画はもはや絶対的な娯楽ではなくなっているし、映画館で映画を見る習慣すらも不透明です。だから尚更、我々は世界中のどこでも、誰とでも協力しあって「強い映画」を作るべきだと考えています。ジャンルや尺やフォーマットやカメラを問わず……ただ核は人間や社会に対する信頼でありたいですね。

(取材・文/小山田滝音)

***

『あの日のオルガン』
2月22日(土)より新宿ピカデリーほか全国でロードショー

監督・脚本:平松恵美子
エグゼクティブ・プロデューサー:李鳳宇
出演:戸田恵梨香、大原櫻子、佐久間由衣、三浦透子、堀田真由、福地桃子、白石糸、奥村佳恵、萩原利久、山中崇、田畑智子、陽月華、松金よね子、林家正蔵、夏川結衣、田中直樹、橋爪功
配給:マンシーズエンターテインメント

2018/日本映画/119分
公式サイト:https://www.anohi-organ.com
©️2018「あの日のオルガン」製作委員会

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