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2019.02.21 17:15  BOOK STAND

富山市の取り組みから見た”暮らしやすく持続可能な地方都市”とは

提供:WEB本の雑誌


 ドイツ在住のジャーナリストで環境コンサルタントの村上 敦氏が著書『ドイツのコンパクトシティはなぜ成功するのか ―近距離移動が地方都市を活性化する―』でドイツの例を紹介しながら論じているのは、日本の地方都市が直面している”衰退”の現実を食い止め、活気のある地域に変えていくための都市計画の考え方です。

 日本では20年以上も前から地方都市の活性化を促すさまざまな施策が行われてきたにもかかわらず、現実は厳しさを増しています。2018年に国立社会保障・人口問題研究所がまとめた「日本の地域別将来推計人口」(※)によると、2045年には東京を除くすべての道府県で人口が減り、4割強の市区町村で人口減少率は40%を上回ると推計されています。

 そんな中、日本でも先駆的な施策を次々と導入し、成果をあげている地方都市があります。村上氏が前述の著書の中で「先進自治体」と評価する富山市もその一つです。

 2月15日(金)に東京大学で富山市の取り組みを検証し次に生かしていくことを目的に、シンポジウム『市民目線のまちづくり ~富山市の都市経営に見るヒント~ 』が各界の専門家の参加のもと開催されました。

 シンポジウムは富山市の担当者からの「コンパクトシティ政策による市民生活や意識の変化」についての調査結果の報告から始まりました。

 まず富山市では公共交通機関の整備が高齢者の外出につながり、地域社会との交流や健康増進に役立っているばかりでなく、利用者の中心市街地での滞在時間と消費金額が増大する傾向があることなど、富山市が目指すコンパクトシティ構想の核としてすすめる施策が住民の賛同を得て効果をあげている様子が発表されました。

 ソフト面の取り組みとしては、高齢者向けに公共交通機関の料金を格安にする「お出かけ定期券事業」や祖父母と孫が一緒に公共施設を訪れた際の入園料が無料になる「孫とお出かけ支援事業」を実施。地域の健康拠点「まちなか総合ケアセンター」が子育て支援や高齢者支援の中核施設として活用されている事例が紹介されました。

 これを受けてCSR/SDGコンサルタントで地方再生プロジェクトにも積極的に取り組んでいる笹谷秀光氏から「産学官連携で進める富山での試みは抜きんでている」と住民参加型の社会を全方位から実現するきめ細かな行政の取り組みへの称賛の声があがりました。

 一方、東京大学で都市工学を研究する中島直人氏は、富山市の総合的な政策を評価しながらも「暮らしやすいリバブルな都市とコンパクトシティの関係性を明確にするための検証が必要であり、公共投資の費用対効果についても注目する必要がある」と指摘。

 また東京大学都市デザイン研究室の永野真義氏は「富山市の行っている施策は”公助”であり、それが住民の間に浸透して”共助”や”自助”を引き出すようになると、本当の意味でのサスティナビリティ(持続性)のある街になっていくだろう」と述べました。

 マーケティングを専門分野とする富山市政策参与の深谷信介氏は、住民全員に役立つサービスを無償で提供する自治体のマーケティングの難しさに触れた上で、富山市の成功の要因を分析。「社会基盤の整備、イベントなどによるソフト面の充実など富山市の住民サービスは使う側の立場に立ったユニークでクリエイティブなもの。住民の潜在的なニーズに行政が応え、その取り組みについての情報発信も行われている」(深谷氏)

 司会を務める事業構想大学院大学学長の田中理沙氏も、自らの子育て経験を基に富山市で行われている病児保育について「本当に必要とされるサービスが提供されている」と感じたそうです。「福祉や医療に予算を回せば健康寿命が高まるなど自治体にもメリットがあるのではないでしょうか」(田中氏)

 最後に「すべての世代を巻き込んだ新しいコミュニティを構築するために次の世代を地域全体で育てようという意識改革と環境整備」が提案され、将来に向かってより活力のある持続可能な都市になっていくための更なる革新に期待する声でシンポジウムは終わりました。

 富山市は2014年に日本ではじめてロックフェラー財団が選ぶ「100のレジリエント・シティ」に選ばれました。これは、自然災害や環境汚染、少子高齢化など社会的課題に素早く対応し、さらに成長する力があると認定された都市に贈られる称号です。

 かつては他の地方都市と同じように活気を失っていたという富山市。地域振興の成功例として取り上げられるようになったのは、行政の積極的な姿勢、地域振興への住民の願い、再生に関わる専門家の助言など、多くの要素がありそうです。

 『ドイツのコンパクトシティはなぜ成功するのか ―近距離移動が地方都市を活性化する―』で取り上げられているドイツの街のように、日本でも地方都市が人々の生活の場として活気を取り戻す日が来ることを願い、富山市のこれからの取り組みを見守っていきましょう。

〈参考文献〉
(※)「日本の地域別視将来推計人口―2015~2045年―」(国立社会保障・人口問題研究所 2018年推計) http://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson18/1kouhyo/gaiyo.pdf

パネリスト 
事業構想大学院大学 学長 田中理沙(司会)、富山市政策参与 深谷信介,東京大学都市工学専攻 准教授 中島直人、東京大学都市デザイン研究室 助教 長野真義、CSR /SDGコンサルタント 笹谷秀光(以上、敬称略)

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