記者D:自民党内は妙に盛り上がっていた。国会議員でもノーベル賞の推薦状を出せるという話が広がって「オレも推薦状を書こう」と悪ノリする若手議員が何人もいた。首相は実際に困惑していたはず。
記者B:いや、トランプ発言に一番驚いていたのは当の安倍首相だ。「オレ、そんな手紙出したっけ?」と覚えていなかったらしい。毎日多くの行政文書や外交文書にサインしているから一つ一つ中身を覚えていないとしても不思議ではない。
記者D:苦しい言い訳にしか聞こえませんけど。
記者B:そもそも総理はノーベル賞推薦がおかしいとは思っていないから言い訳する必要がない。韓国の金大中・元大統領は金正日・総書記と南北首脳会談を開催しただけでノーベル平和賞を受賞(2000年)している。「歴史的な米朝首脳会談をやったトランプ大統領には資格は十分ある」と。でも、書簡は外務省が勝手に書いたと思っていたんじゃないか。
◆日ロより日朝をお膳立て
記者A:もっとも、このノーベル賞推薦は思わぬ効果があるかもしれない。トランプ大統領が書簡を明かした狙いは、米朝が融和に動いているのに北朝鮮への強硬姿勢を崩さない安倍総理を対話に引き込みたいからだろう。総理もロシアとの領土交渉が行き詰まっているから、「次は私が金正恩と向き合わなければならない」と北朝鮮に目を向けている。トランプ大統領が日朝を橋渡ししてくれたら“渡りに船”だ。日朝首脳会談が意外に早く実現するかもしれない。
記者B:確かに安倍首相の北方領土交渉への熱意は1月の日ロ首脳会談以後、目に見えてしぼんでいる。外務省幹部も首脳会談後は、「プーチン大統領の政治基盤は日本人が思っているほど強くない。だから時間がかかっている。タイムリミットは次の6月の首脳会談、その後は参院選になってしまう」と冷めた言い方になった。その頃から、官邸は民間人の密使を北朝鮮に頻繁に送っている。「安倍首相に近い内閣官房参与の1人が北に入った」という情報を外務省幹部は否定しなかった。