◆農林水産業者もターゲット
「あまり議論になっていませんが、一番影響を受けるのは農林水産業者かも知れません」と話すのは、ある信用金庫の職員だ。
「給与所得者のサラリーマンは、元々、源泉徴収されており、最低限の必要経費しか認められませんが、昔から自営業者や農業・林業・水産業従事者の課税申告は完全に捕捉できず、“クロヨン”だの、“トーゴーサン”なんて言われてきましたからね」
つまり、課税対象となる所得のうち、税務当局がどの程度の割合を把握しているかを捕捉率と言う。サラリーマンの給与所得者は、9割からすべて(10割)が捕捉されるのに対して、自営業者は6割から5割程度、農林水産業者は4割から3割しか捕捉されていないということを指してきた。
「農家の人たちは、今まで経営とか企業という意識を持たなくても良かった。事業の経費も生活に関わる家計も一緒くたでも良かった」
ある地方自治体の職員は、家業として行われてきた農業をそう説明する。しかし、キャッシュレス化が進めば、事業の経費なのか、家計なのかすべてが捕捉される。
「現金で販売してきたものも捕捉されるようになれば、否が応でも事業として、経営者としての自覚が必要となる」(同職員)と説明し、農林水産事業者の起業の促進には良いのではないかと期待を込める。
消費税もいよいよ10%の大台に乗る。人口減少が急激に進む中で、新たな税収を求めることも難しい。そんな中で、キャッシュレス化の促進は、中小企業や自営業者、さらには農林水産業者の課税所得の捕捉率を飛躍的に向上させることが可能になるというわけだ。
こうして個人情報や信用情報をすべてさらして政府の脱税対策にも利用されるキャッシュレス化。こう考えていくと功罪半ばするようだが、さて、あなたは賛成するだろうか。