◆素直に美しいものが描けたらいい
かつての私には、美しいものを描きたいと思うより、ただ、自分の苦しみや孤独を吐き出すことしかできなかった。親や、生まれついた環境を恨むことしかできなかった。でも、もうそんな生き方は卒業したい。私は大人になったのだから、自分の心の赴くままに人生を作ることができる。自分の人生が暗いのは、自分のせいだ、明るくしようと思えば、人生はきっと光に満ちて美しくなる……。
親との軋轢以上に悲しかった友との別れを経験し、人生の不条理にも身を浸すことによって、ようやく私は、“素直に美しいものが描けたらいい”と思えるようになったのかもしれない。
私は正統的な絵の教育を受けた事なんてない。ただ夢中で漫画を描いてきただけだ。今さら画家を目指すなんて、空恐ろしいことなのだろうとは思う。でも、精いっぱい描くしかないではないか。絵に託す思いなら、だれにも負けないという自信だけはある。どうあがいても、自分に描けるものしか描けないのだ。ならばただ素直に、心の憧れのままに描いていけたらと思う。
私は、自分を癒してくれた椿山荘の庭園の一分の美しさでも切り取ることができるだろうか。今回の絵画展のテーマに決めた、パリという街の美しさも……。
私が画家としてそれらを表現できたかどうかは、ただ見てくださる人の心に委ねようと思う。様々な人生を生きてきた方々にご覧いただくために、今夜も明日も、私は筆を滑らせる。拙いかもしれないが、これは私の再生の展覧会だ。私より先に、志半ばで逝った友への鎮魂の想いと、何も言わずただ私の願いを理解して支えてくれた夫への恩返しもかねて、そして、死の淵にいた私を真綿のようにくるんで癒してくれた美しい椿山荘とのそのスタッフへの感謝を込めて、私は描こうと思う。
やっと気づくことのできた人生への愛を、絵画で展示できたらと思っている。そして私の絵が、誰かの孤独や傷を癒す力を宿してくれたらいいと願っている。それがたった一人の人であっても、私の思いが届いたら本望だ。
◆さかもと未明:1965年、横浜生まれ。1989年に漫画家デビューし、多方面で活躍するも2006年に膠原病を発症し、その後、活動を休止。一時期は死を覚悟するが絵画の道を志し、2017年に吉井画廊で本格的画家デビュー。2018年3月には、バチカンの聖マリア・マッジョーレでロッシーニ・オーケストラと共演。同年、乃木会館の広告で写真家デビュー。多彩な分野に表現を広げる。2019年4月13日~4月21日に絵画展「L’esprit de Paris~パリのエスプリ」をホテル椿山荘東京アートギャラリーで開催する。同絵画展は、色彩に眼覚め、人生の喜びを描くことを試みたさかもと未明の新たな出発となる。