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コラム

2019.04.02 16:12  日刊SPA!

ゾンビに間違えられる経験は、平成でもう終わりにしたい――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第37話>

 昭和は過ぎ、平成も終わりゆくこの頃。かつて権勢を誇った“おっさん”は、もういない。かといって、エアポートで自撮りを投稿したり、ちょっと気持ちを込めて長いLINEを送ったり、港区ではしゃぐことも許されない。おっさんであること自体が、逃れられない咎なのか。おっさんは一体、何回死ぬべきなのか――伝説のテキストサイト管理人patoが、その狂気の筆致と異端の文才で綴る連載、スタート!

【第37話】哲学的ゾンビ

 キミはゾンビに間違えられたことがあるか。僕はある。

 それもかなりガチな感じで、本当に冗談でもなんでもなく、心の底からゾンビに間違われたことがある。

 いやいや、「ゾンビに間違えられた」というと、「なにをそんなバカな」と思うかもしれません。それどころか「わけわからないこと言ってるな」「何かの比喩?」という感想を抱くかもしれません。総合的に考えると「ありえないだろ」という感想に行きつくと思います。

 では、なぜそういう感想に至るのか、それは「ゾンビ」というものがこの世に存在しないからです。

 いうまでもなく、ゾンビとは何らかの力によって死体のまま蘇った人間を総称します。場合によっては皮膚とかドロドロになってですね、両腕を前に突き出して「ヴー」とか歩いてくる、それがゾンビです。こういった存在は映画やゲームの中には多数登場しますが、残念ながら現実世界でその存在が確認されたことはありません。

 そのような実在しない存在に間違われた、なんていうと頭が狂ったことかと思われるかもしれません。それこそ、ユニコーンに間違われた、ドラゴンに間違われた、イエティに間違われた、と言っていることとそう代わりがないですからね。そんなこと言っていたら本格的に頭がおかしいでしょう。

 間違える方だって存在しないってわかり切っているのに本気で間違える、そんなシチュエーションは普通に考えてありえません。

 けれども、それをもって「ゾンビと間違われたなんて狂ったこといってやがる!」と一刀両断するのはいかがなものでしょうか。それこそ思考停止も甚だしく、外見だけは人間で中身は思考のないゾンビのような存在と言えるのかもしれません。

 きっぱりと断言します。この世に存在しない「ゾンビ」ですが、時と場所、条件さえ揃えば、その架空の存在に本気で間違われるのです。今日はそんなお話です。

 あれは暑い夏の日でした。友人がめちゃくちゃ面白いキャンプがあると誘ってきたので、まあ、そこまで言うならと、とあるキャンプに参加したのです。連れていかれた先は携帯電話の電波もロクに入らないような、完全無欠の山の中でした。

◆ゾンビイベントを終えて、一息つくはずだったが……

 このキャンプは、普通のキャンプとは違い、イベントがセットになったキャンプと言えば分かりやすいでしょうか、とある仕掛けが人気のイベントでした。まあ、あまり多くを語るとネタバレになってしまうので最低限に留めますが、普通にキャンプをしていたらキャンプ場がゾンビに襲われる、というものなのです。

 キャンプ場をゾンビが襲う、そんなことして何になるんだよ、と思うかもしれませんが、これがやってみると非日常的で面白い。知らない人とグループを組んで、テントを立てたり、食事の準備をしたり、そういうことをしていると突如としてゾンビが襲ってくる。もちろん、このゾンビは主催者サイドが準備したスタッフなのだけど、メイクも演技も凝っていてかなり迫真な感じだ。

 さらには、ゾンビではない運営スタッフの人たちも迫真の演技で、すごい緊急事態が起こっている、と緊迫感を演出してくるのです。なんか本当にとんでもないことが起こっている、本当にゾンビに襲われている、くッ、携帯も繋がらない、みたいな気分になってくるのです。

 そうこうしていると、いろいろと話が展開していって、やれキャンプ場の外で事故した車まで食料を取ってこいだとか、ワクチンを取ってこいだとか、そういったミッションが課されるわけです。これらをグループの仲間とクリアしていくわけですが、当然、そこにはゾンビが山ほどいて、迫真の演技で襲ってくるわけです。

 この辺が醍醐味でしょうか。やはりゾンビの中に突入していって食料を取るとか、さながら自分が映画の主人公になったような気分がしてきます。おまけに、知らない人だったグループの仲間も脇を固める重要なキャストに思えてきます。

 ただ、どんどんミッションが過激になって行って、風雲たけし城みたいな感じになってくるのです。平均台があったり、とてもじゃないが昇れない反り立つ壁があったり、その辺のギミックをゾンビをかいくぐりながらクリアせねばならず、これがおっさんにはかなりきつかった。他の若い人たちはピョンピョンクリアしていくのに、やっぱりおっさんにはきつかった。

 無理がたたったんでしょうね。そのアトラクションの最後に足をひねっちゃいましてね、もうこの後のミッションはできない! みたいな状態になってしまったのです。

 ただ、僕らのグループは本当に映画の主人公グループみたいに結束が高まってますから、グループ内のギャルっぽい女の子が「足を痛めてるならわたしが支える!」とかいって腕を組んできましてね、まあ、柔らかいですよ、ゾンビ最高だな、と、そう思ったわけです。

 「いやー、足を痛めちゃったなー」

 その日のミッションがひととおり終わり、グループのメンバーと談笑していました。闇夜に焚火の灯りが揺れ、スピーカーから流れるノリの良い音楽と草木の陰に潜む虫の声がアンサンブルを奏でていました。

 「いよいよ1日目も終わり、そろそろ寝る準備をするか」

 なんて思っていたのですが、実はそうではなかったのです。ここがこのイベントの最大のキモなのですが、なんと、参加者と思われたサイドにも運営の息がかかったスタッフが紛れ込んでいるのです。そいつがいきなり発症してゾンビになるのです。

 もうパニックですよ。

 普通に、今日はよろしくお願いします、とか挨拶を交わし、みんなで呼び名を決めましょう、とかいって「アニキ」とか呼ばれ、ミッションをこなしていった頼もしい仲間が、突如としてゾンビになるのです。

 「ちょっと具合が悪い」

 とか序盤から伏線を張りつつ、突如として豹変するのです。

 「ヴーヴーヴーヴーヴーヴーヴー」

◆ギャルが悲鳴を上げるので、僕はしぶしぶゾンビの振りをした

 これはもう大パニック、「アニキが! アニキが!」とか参加者全員が大騒ぎ。かと思ったら同時多発的に参加者のふりしたサクラが発症してですね、騒然としてくるわけですよ。女の子なんてあまりの恐怖に泣いてましたからね。

 そのかつては仲間だったゾンビを銃(モデルガン)で撃って撃退しないといけないわけですが、戦う人、逃げ惑う人、踊りだす人、と訳の分からない状態になっているなかで、僕は足を痛めているので、戦うのも逃げるのも大変だ、と少し離れた場所でその様子を見守っていたのです。

 ゾンビを撃退し、キャンプ場に束の間の平和が戻ってきたのを確認し、自分のテントに戻ろうと移動します。こんな楽しいイベントなのに足を痛めるなんて、と足を引きずって歩いていると、あまりの恐怖に泣いていた女の子と視線が合いました。

 「いやああああああああああ、またゾンビ!」

 足を引きずってる僕の姿を見てゾンビだと思ったんでしょうね。まだサクラが紛れ込んでやがった、もういい加減にして、という悲鳴でした。

 「いや、ちがう、そうじゃないから」

 ゾンビ映画やゲームの発展により様々なゾンビが発明されました。ヴーヴー唸ってズリズリと動くステレオタイプなゾンビだけでなく、異常な速さでダッシュしてくるゾンビや、機関銃を装備したゾンビ、スナイパーゾンビなんかもいます。様々なゾンビがいますけど、言い訳するゾンビってなかなかいないんじゃないでしょうか。

 「絶対にそう! 絶対にゾンビ! いやああああああああああああああああああ!」

 「ゾンビじゃないですから!」

 僕もまあ、けっこう長いこと人生ってやつをやってますけど、まさか本気で「ゾンビじゃない」って弁明する日がくるとは思いませんでしたよ。

 「絶対にゾンビ! そんな顔してる!」

 もともとこういう顔だわ。失礼な女だな。

 まあ、この女の子の誤解だけならまだいいんですけど、女の子の悲鳴大きいですから、血気盛んな若者どもが「どれどれまたゾンビが出たって? さっきは暴れ足りなかったんだよ。対峙してやるぜ」みたいな顔して集まってくるのです。

 そういった好戦的な若者が人垣となっておっさんを取り囲んでですね、またイベントが始まったぞ、とワクワクしてるんですよ。もはや勘違いであると言えない状況じゃないですか。

 結果、僕も「ヴーヴー」とかいって迫真のゾンビ演技をするしかなく、ガチでゾンビだと勘違いされ、それに合わせてゾンビのふりをする、というちょっと奇妙な体験をしたのでした。普通に血気盛んな若者に退治された。一般参加者なのにゾンビとして退治された。

 ほら、本気でゾンビに間違われているでしょ。

 このように、まさかありえないだろう、という事象でも、そのシチュエーションによってはありえるのです。そう、この世にはまさかがありえるのです。

 ちなみに、完全に別件ですが、山の中でキノコを探しているときにどうしても我慢できず、ノグソしていたら若い娘に発見され、本気でイエティに間違われたこともあります。そう、まさかはあるのです。

【pato】
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。ブログ「多目的トイレ」 twitter(@pato_numeri)

ロゴ・イラスト/マミヤ狂四郎(@mamiyak46)

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