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2019.04.13 16:00  マネーポストWEB

文系出身者が「これは役に立った」と感じた大学の講義

文系の大学の講義はどこまで将来の役に立つ?

 大学生にとっては、受講講座の選択に悩んでいる時期だろう。理系であれば、追究したい分野や将来進みたい道の講座を取り、研究や実験を重ねれば良いものの、文系の場合は「果たして将来役立つのだろうか……」と悩むケースもあるのではないか。「文系出身者が役に立ったと思える講義」にはどんなものがあるのか。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏が解説する。

 * * *
「そもそも文学部の学生は、役に立つかどうかで大学の講義を選んでない」と語ったのは、文学部出身で西洋史学を専攻した40代男性・A氏(現・出版社勤務)です。

「語学などの必修科目以外では、役に立つか立たないかは関係なく、興味のあるものを私は受講していました。たとえば、哲学科の『因果概念の研究』という講義では、原因と結果の関係性や、理由と帰結との違いとか。そもそも因果関係が生まれる背景には何があるのか。誰かがそれを観測しなければ、因果関係自体成立しないのではないか。最終的には“人格”の存在こそが因果概念の鍵を握っている──みたいなことを習いました。

 あ、この段階で今の自分の仕事どころか、普通に生活するうえで、なくてもいい知識ですよね。でも、大学の講義ってそれでいいと思っています。むしろ、文系の人が学問を仕事の役に立てようとし過ぎても仕方がないのではないでしょうか。様々な教養に触れ、多様な考え方を得る、ということでいいのでは」(A氏)

 なるほど、文系の場合は、「この講義は5年後の私の仕事に××の形で〇〇の場面で役立つはずだ!」などと気負わないで良いということだろう。しかし、A氏は『国際関係論』という講義で学んだ「ゲーム理論」は今でも仕事や人生の考え方において役に立っていると語ります。

「ゲーム理論で役に立つのは、条件がいくつかある時に、どういう考えでどちらを選ぶのが良いか、という考え方ですね。天気がどうなるかわからない時に傘を持って行くかどうか、とか、その選択をする時に合理的な理由をつけられるか――。そんなことを考えるようになりました」

 ちなみに、縦軸に雨が降る・降らない、横軸に傘を持つ・持たないを並べたマトリックスで、一番いいのは「雨が降らない&傘を持たない」で、一番よくないのは「雨が降る&傘を持たない」。そうなると、「雨が降る&傘を持つ」と「雨が降らない&傘を持つ」のどちらをよいと思うかによって行動が変わってくるように感じるが、「雨が降る&傘を持たない」という最悪の事態を避けるためには、傘を持って行くことが不可欠となります。これが“最悪回避戦略”という考え方で、A氏はこれを学んで以降、天気がどうなるか分からない時は、極力、傘を持ち歩くようになったといいます。

 ここに割って入ってきたのが、教養課程で同様の講義を受講したという、農学部出身の40代男性・B氏です。彼は自身の専門であるバイオ技術とはまったく関係のない編集・ライター仕事をしています。

「ゲーム理論の考え方を知っておけば、失敗しても納得できるんですよね。色々な選択肢からもっとも合理的なものを選んだ結果だから『しょうがないや』と自分の決断について後悔することなく、納得できるのです」

◆この講義に出会えただけで大学に行った価値があった

 商学部出身の私自身に関しては、営業や企画などすべての場面において「人の気持ちが分かる」ということが非常に重要だと感じています。それを学べたのが楠木建先生(一橋大学大学院経営管理研究科教授。専門は競争戦略)の「生産管理」という講義です。基本的には、いかにして生産性を上げるか? をケーススタディとともに学ぶ講義でしたが、その中でも非常に印象に残っているのが、当時人気だったレストランチェーン「アンナ・ミラーズ」の女性従業員がゲストスピーカーとして来た時の話です。

 同店は、ウェイトレスが短いスカートをはき、胸を強調する制服で知られており、男性客がそれを楽しみに行くような側面がありました。現在でいえば「Hooter’s」のようなものかもしれません(東京・品川に今でも1店舗ある)。

 講義は、楠木先生が、制服を着て前に立つ従業員に質問をしながら、彼女が若干緊張しながら答えていくスタイルで進行していきました。楠木先生は、店舗まで行き、「講義に出てもらえませんでしょうか。制服を着て」とお願いしたのだといいます。講義はこんなやり取りで進行していきました。

楠木先生:「アンナ・ミラーズって従業員募集の倍率は高いのですか?」
店員:「それなりに高いですね。というか、けっこう高いです」
楠木先生:「でも、時給は別に一般的なファミレスと比べてそこまで高いわけではありませんよね」
店員:「そうです」
楠木先生:「しかも、こうして脚を出し、まぁ……、胸も強調するような感じの制服を着ているではありませんか。男の客はじろじろ見るでしょうし。それでいてその時給でいいんですか?」
店員:「いや、むしろ私はこの制服を着たかったんです。この制服を着ている時の自分が好きだし、時給を超えたやりがいがあるんです」

 私達学生はアンナ・ミラーズの裏側を知ることができ、単純に面白かったのですが、実はこの講義で楠木先生が伝えたかったのは「いかにして従業員のモチベーションを引き出すか」ということだったのです。時給が安くとも、この仕事をやりたい、自分に対して自信を持つ女性が多数応募する中から高倍率を勝ち上がったという自尊心が得られる。客も食べ物だけでなく自分を目当てにやってきてくれている、ということにモチベーションが高まったというケーススタディになっていたのです。

 チームに分けてプレゼン大会を行うなどしましたが、楠木先生は「条件面を良くする以上に、従業員同士の『愛』こそ重要」といった話や、「同僚のホメ方」「競争がもたらす『より高み』に向かわせるチームワーク」などを具体的な体験とともに解説してくれました。

 この講義に出会えただけでも私は4年間大学に行った価値があると思っている。

◆人生の指針となる「師」を見つける醍醐味

 なお、冒頭で登場したA氏だが、「千里の道も一歩から」「やればできる」ということを学んだのも大学の講義のおかげだといいます。A氏は西洋史学が専攻だったが、ドイツ語の分厚いテキストを渡されても最初は何も分からない(語学が苦手だったようです)。

「いやぁ~、ドイツ語は確かに難しかったですが、目次も含めて、分からない単語を片っ端から全部辞書でひけばなんとかなるんですよ! そりゃあ、時間はかかりますが、すべての言葉をしらみ潰しに訳していけば、ある程度、文章の意味は分かるようになります。根性論かもしれませんが、『やればできる』はウソではないことが分かりました。これって、今仕事をするにあたっての基本的スタンスにもなっていると思います」(A氏)

 一方で、現在、文系の学部で教鞭をふるっている人は何を考えているのでしょうか。千葉商科大学専任講師の常見陽平氏にまずは「役に立った講義」を聞いてみると、竹内弘高先生(一橋大学名誉教授。専門はマーケティング、企業戦略など)の『インターナショナルビジネス』を挙げました。

「いまでいうグローバル・ビジネス講義ですね。競争戦略だけでなく、世界とどう向き合うか、どんな未来をつくるのかを考える講義で、受講生も積極的に議論をしたり、鋭い意見を述べるなど、レベルが高かったです。

 竹内先生は学生に写真入りのプロフィールシートを提出させましたが、それを2回目までに完璧に覚えてきたので、驚きました。毎回ケースが渡され、読み込み、分析しなくてはならないのですが、小テストと発言により点数は決まっていきました。この講義では人を掴む話し方、議論の組み立て方という、プレゼンやファシリテーション(会議で健全な議論を進める方法)の仕方をまずは学べました。しかし、何より、世界を、そして日本をどう見るかという大きな視点を得られるとともに、難しい局面をポジティブに捉え、いかに変化を起こすか、を学びました」

 そして、現在文系の教員として学生にどのような視点で学習して欲しいかを聞きました。

「私は、常識、感情にとらわれずに世の中を見ることを意識しています。複雑な課題をいかに解決していくかという考え方、そして前に進む勇気を持つことの大切さも伝えたいと思っています。もちろん、大前提として、その科目で身につけるべき知識は教えますが、ただ、それをいかに活かして今現在の社会で起きていることを読み解くか、という機会は設けているつもりです。

 スキル面では読書やメディアなどを通じていかにインプットし、そしていかにアウトプットをするか、といったやり方を、課題を通して学んでもらっています。さらに、私自身の日々の仕事、教壇での振る舞いから社会人としてのあり方なども学んでもらいたいとも思っています。自分という人間から刺激を受けてもらうように、そう私が竹内先生や中川氏も言及した『生産管理』の楠木先生から影響を受けたように」

 常見氏は、竹内先生と会ってから人生が変わったといいます。講義で学ぶ「知識」も重要ですが、いかに人生の指針となる「師」を見つけるのも大学で学ぶ醍醐味でしょう。これは、文系・理系にこだわらず、すべての大学生に知っておいてほしいものです。

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