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2019.04.26 07:00  マネーポストWEB

トヨタの次期社長候補、現社長・章男氏を叱り飛ばした元上司

トヨタ自動車の豊田章男社長(EPA/時事)

 トヨタ自動車の名誉会長、豊田章一郎氏が日経新聞の名物コラム「私の履歴書」の連載を始めたのは平成26年(2014年)4月1日からだった。

 29回にわたった連載の中、ハイブリッド車「プリウス」を成功させ、いわば“世界のトヨタ”に仕立て上げた最大の功労者、奥田碩元社長(当時、相談役)の名前がほとんど登場しなかった。当時、豊田家の直系にして、章一郎氏の長男、章男氏が社長となって5年。ようやく“章男カラー”のトヨタが動き出そうとしている時でもあった。

 章一郎氏の連載はいうなれば、豊田家による「トヨタ史」の作成に他ならない。それは、豊田家による、世界最大の自動車メーカー「トヨタ」の継承を正当化するものでもあった。

 そして、章男氏の社長在任も10年を迎え、その後継問題が業界のみならず財界で取り沙汰され始めた。

 その意味で昨年11月、幹部人事を刷新し、常務役員などのポストを廃止、40代でも要職につけるとするトヨタの発表は衝撃的だった。この人事は章男氏が寵愛し、「次の次」への継承を想定していると言われる長男、大輔氏をいち早く昇進させるのが狙いだ、とする見方が大勢だった。

◆一兵卒としての経験

 昨年4月2日、章男氏の姿を三重県鈴鹿サーキットに見ることができた。多忙を極める章男氏がわざわざ鈴鹿まで足を運んだのには、理由がある。

 自身が無類のレース好きという以上にこの日は、溺愛する長男・大輔氏のS耐久レースデビューを見届けるためだった。章男氏の登場は会場を沸かせたが、それ以上に長男とのツーショットに収まった章男氏のうれしくてたまらないと言った笑顔が印象的だった。

 慶応大学を卒業後、トヨタに入社。30代になった大輔氏は、電子制御基盤技術部などで経験を積む一方で、先にも触れたようにレーサーとしても知られている。大輔氏の仕事は地味な分野ではあるが、それは章男氏の意向が反映されているという。章男氏は自身が一兵卒として身を置いた現場での経験を息子にさせたいと強く感じているようだ。

 章男氏自身は平社員としてカローラの販売を担当した時、営業成績が悪く、あまりの数字の悪さに時の上司から、「数字を残せないなら(会社を)辞めてもらっていいんだぞ」と怒鳴りちらされた経験を持つ。豊田家の御曹司として育てられてきた章男氏には衝撃的な一言だった。

 後年になって章男氏は当時を「僕に寄って来るのは揉み手の人ばかりだったから、あの言葉は逆にうれしかった」と振り返っている。

 章男氏を烈火の如く叱り飛ばしたのが、70歳という年齢ながら現在、副社長の席に座る小林耕士氏なのである。

 この小林氏に全幅の信頼を置く章男氏は、息子の大輔氏に自分と同じような側近的な人間が現われることも期待しているようだ。そのために、販売店や投資家向けの大きなイベントなどの準備作業などにも積極的に関与させては、会社の「大きな流れ」を学ばせようとしている。

 10年前、ようやく社長に就任した章男氏を待っていたのは試練の連続だった。

 リーマンショックを受け会社は71年ぶりに赤字決算に転落する憂き目に遭う。翌年には世界規模でのリコールが発生。世界的にかつてないほどの、“トヨタ・バッシング”を受ける。それに留まらず、章男氏は米議会の公聴会に呼ばれ、さらし者にもされる。さらにその翌年には東日本大震災にも見舞われ一時は全工場操業停止にも追い込まれてしまう。

 その頃だった。章男氏がかつて側近だったある人物にこう弱音を吐く一方で自問自答していたのは──。“果たして自分がトヨタを率いて行ける資質があるのだろうか”と。

◆2人の「中継ぎ社長」候補

 米公聴会から帰国した章男氏は、豊田市の本社に戻り2000人余りの社員に向けて、涙ながらに公聴会での状況を報告した。しかし、泣いたのは章男氏だけではなかった。驚いたことに、多くの古参社員や幹部社員らが、涙をこぼす章男氏の姿に涙したのだった。

「日本政府も、外務省も、経産省も守ってくれない中、章男さんはただ一人で耐えたんです。色々言われたけれども、あの姿を我々は決して忘れない」

 こう章男氏への思慕を隠さない社員は少なくない。彼らにとって、豊田家こそ尊いものであり、章男氏から大輔氏へと受け継がれる血統こそが重要なのだと、考えている。

 章男氏の父・章一郎氏に仕えたかつての幹部の言葉は象徴的である。

「トヨタには優秀な社員はいくらでもいるが、豊田本家の血統は章男氏しかいない」

 時は流れて、章男氏から大輔氏へ。たしかに、これこそトヨタに流れる美しい血脈なのだが、様々な人事を巡らせても大輔氏への継承までには、少なくとも1人は「豊田家以外からの社長」が必要になってくる。

 そこで俄然注目を浴びているのが先に章男氏を唯一叱り飛ばしたかつての“上司”である副社長の小林氏だという。

 昭和23年生まれ、経理畑を歩いて来た小林氏は、鉛筆1本さえ無駄にしない原価管理を徹底させる。一度、ほぼ引退の身となった彼を前代未聞の人事で再び引き上げたのは章男氏だった。

 彼と並ぶもう一人の候補が“側近中の側近”を自負している友山茂樹氏(副社長)である。友山氏は章男氏と始めた自動車とITを融合させた情報サービスビジネス、また昨年にはソフトバンクと共同出資会社を設立させるなど、トヨタの新しいビジネス領域を開拓してきた。

 どちらかが中継ぎとなるのか。残された時間はそれほどあるわけではない。

●文/豊国道雄(ジャーナリスト)

※週刊ポスト2019年5月3・10日号

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