胸突坂下には松尾芭蕉が住んだ「関口芭蕉庵」がある

山野:町人エリアには幕府が町名を付けましたが、江戸の面積の8割を占めた武家屋敷・寺社エリアには町名を付けませんでした。目的地へ行くには里俗地名が必要になるため、坂道に名前を付け、目印にしたんです。

團:坂には深い意味があるのですね。ところで、名前がかぶったりはしないのですか?

山野:いい着眼点ですね。かぶっています(笑い)。それはね、行政が命名しているのではなく、住民が勝手に名付けているからです。かぶりが特に多いのは鉄砲坂ですね。その中でも、胸突坂の近くにある鉄砲坂が最も江戸の情趣を伝えています。

住宅街の石塀の間を迂回する鉄砲坂

團:この文京区の関口・目白台界隈には、風情のあるいい坂がたくさんあります。護国寺駅が最寄りの筑波大学附属中学校に通っていたので、付近の坂は日常的に歩いていました。通学時に歩く緩やかな付属横坂もあり、その坂がとても好きでした。

山野:護国寺には團さんのお祖父さんの團伊玖磨氏(作曲家)、高祖父の團琢磨氏(三井財閥総帥)のお墓もありますよね。ちなみに都内で坂が特に多い地域は、文京区、港区、新宿区、千代田区です。都心が多いですね。

團:面白い坂はどれですか?

山野:永田町の三べ坂は、名字に「べ」が付く大名屋敷が3つ並んでいたことが由来です。江戸庶民の言語感覚は素晴らしい。

3人の「べ」から付いた「三べ坂」

團:洒落ていますね!

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