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2019.06.02 07:00  マネーポストWEB

安倍政権の「働き方改革」は男性中心社会の延長線上でしかない

女性にとって「働き方改革」の意味とは(写真:時事通信フォト)

「わたしはこれ以上がんばりません。定時で帰ります。お先に失礼します」──今話題のドラマ『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)で、吉高由里子演じる主人公・東山結衣が胸を張って口にするセリフだ。

 ウェブ制作会社のディレクターとして働く結衣は、過去に働きすぎて負ったトラウマから、残業しないスタンスを貫く。「絶対残業しない」をモットーに効率的に仕事をこなし、定時になるとさっと退社する。退社後に、行きつけの中国料理店でビールを飲むのが毎日の楽しみだ。

「長時間労働」や、男女間をはじめとするさまざまな「格差」など、働く女性が社会や職場で直面する問題をリアルに描いた本作。4月の放送開始直後から反響を呼び、ネット上では「共感できすぎて困る」「まるで私」といった女性の声が相次いだ。

 昨今、連日ニュースで取り沙汰されている「働き方改革」。だが、働く女性の悩みや直面する壁に対して、本当に役立つ改革なのか──そんな疑問をこのドラマは投げかける。

 そもそも「働き方改革」とは、誰もが働ける「一億総活躍社会」の実現に向けた、安倍政権肝いりの成長戦略のことだ。「働き方」評論家で、千葉商科大学国際教養学部専任講師の常見陽平さんが話す。

「“一億総活躍”というと聞こえはよいですが、この言葉には、女性とお年寄り、つまりこれまで労働市場にあまり参加していなかった人が働いて、日本経済に貢献してくださいという意味が込められています。少子高齢化や人口減少に伴う労働力不足で、働き手を増やさなければならないのです」

 これに伴い、この4月から施行されたのが、「働き方改革関連法」だ。「1日8時間まで」という労働時間を定めた「労働基準法(労基法)」が1947年に制定されて以来、実に約70年ぶりの大改正となった。

「働き方改革関連法の骨子は大きく2つ。第1が『長時間労働の是正』です。これまで事実上の青天井だった残業時間の上限を原則『月45時間・年360時間』とし、違反した企業には6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。

 第2に、正社員と非正規社員の待遇格差を縮める『同一労働同一賃金』が盛り込まれました。同じ職場で働く正社員との間に、不合理な待遇差を設けることが禁止され、パートや契約、派遣社員であっても有給休暇の取得が義務づけられるようになりました」(常見さん)

◆「残業時間」を減らせば過労死は防げるのか

 特に大きな目玉である「長時間労働の是正」は、2015年12月に過労自殺した電通社員の高橋まつりさん(当時24才)や、2013年に過労死したNHK記者の佐戸未和さん(当時31才)など、相次ぐ事件を背景に強く推し進められた。

 しかし、「残業時間」さえ減らせば、そうした悲劇はなくなるのだろうか。『女性はなぜ活躍できないのか』(東洋経済新報社)の著者で、日本女子大学人間社会学部教授の大沢真知子さんが指摘する。

「電通の高橋まつりさんは、自殺の数日前、『髪がボサボサ、目が充血したまま出勤するな』『女子力がない』などと上司に注意されたことをツイッターに綴っています。これは、非常に重要なメッセージです。『女子力』という言葉で、若い女性新入社員に“女性性”を強要する性差別です。女性の自信を失わせることにつながります。決して労働時間を制限するだけで解決する問題ではありません」

 元伊藤忠商事会長、元中国大使の丹羽宇一郎さんは『文藝春秋』6月号への寄稿文『「働き方改革」が日本をダメにする』の中でこう綴る。

《過労死という問題を長時間労働に原因を求めてルール作りをしてしまうと道を誤る。というのも過労死の原因には、往々にして上司と部下の関係があるからです。つまり、過労死を防ぐために最も重要なのは、直属の上司によるケア。過労死を減らしたいのなら、最近増えているといわれる部下に無関心な上司こそ問題にすべきです。》

 2人とも「働き方改革」には過労死を防ぐ力はないという指摘で共通する。働く現場は「時間さえ制限すれば快適」というほど、そんなに単純なものではないのだ。特に、女性の働く環境は、労働時間をどうこうしたところで、まったく何の解決にもならないと言っていい。

◆「女性たちはいつも“男性労働力の補完”として扱われる」

 日本女性の働き方の歴史を振り返ると、男女雇用機会均等法(1986年施行)や男女共同参画社会基本法(1999年施行)などで徐々に女性が社会進出を果たしてきたように見える。『女性労働の日本史──古代から現代まで』(勉誠出版)の著者で、桜花学園大学客員教授の石月静恵さんが解説する。

「振り返ると、女性たちはいつも“男性労働力の補完”として扱われ、時代の変化に翻弄されてきました。

 戦前までは“家を守る存在”だった女性が、戦時中は一気に大きな労働力として社会に登場します。それは、男性が戦場に赴いていたからです。戦後、男性が大量復員すると、国鉄(現JR)などの公社や民間企業で女性たちは大量解雇の憂き目を見ました。

 1960年代、1970年代の高度経済成長期になると、経済が活性化するので、男性正規社員だけでは労働力が足りない。そこで、女性がパート労働として引っ張り出されます。1980年代後半のバブル期になると一層の人手不足もあり、1986年には男女雇用機会均等法が施行されて、一段と女性の労働力が求められました。

 ところが、1990年代になるとバブルが崩壊し、就職氷河期が始まります。真っ先に労働市場から閉め出されたのは、女性たちでした。その後も構造は変わらず、多数の男性正社員を補う存在として、派遣社員など非正規雇用で働く女性が増え続けています」

 先に述べた通り、安倍政権の「働き方改革」は、少子高齢化による労働人口(主に現役世代男性のこと)の減少を、女性労働者で補うことを目的とする。今までずっと繰り返してきた「男性正規社員だけじゃ足りないから女性も働いて」という「男性中心社会」の延長線上でしかないのだ。

※女性セブン2019年6月13日号

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