甘い言葉には注意が必要か(アフロ)

 アプリでマッチングされた二十代女性と趣味の話がはずみ、実際に会いましょうと約束したレストランに出かけた三十代の会社員男性は、「デートのはずが、話が変な方向に。気づいたら、商品の勧誘をされていて、ネットビジネスだとわかって逃げた」と語る。「儲かる」という話で多額のお金を出させる例も多く、典型的な副業詐欺と言えるだろう。

 ある女子大学生は、関係が深まりそうだと気を許したタイミングのデートで、相手と決裂することになってしまった。「相手と会っている時に友人を呼ばれて、宗教の勧誘をされた。がんが治るなど、荒唐無稽としか思えない御利益の話ばかりが続くので興味がないと断ったら切れられて、なかなか帰れなくて困った」のが、その人と最後の思い出になってしまった。

 なぜSNSではなく、マッチングアプリで強引な勧誘や詐欺行為をするのだろうか。各アプリをみると女性は無料でも男性は有料のサービスが多い。ならば詐欺などの無理がある話を持ちかけるのは女性ばかりなのかといえば、男性が主体となっているケースもとても多い。彼らにとって、マッチングアプリで得られるチャンスは、お金をかけてでもつかみたいほど価値があるようだ。正攻法では誘えないと勧誘側が自覚しているようなネットビジネスや宗教の場合、直接会うところまでもっていくことが難しいものだ。しかし、マッチングアプリならSNSに比べて格段に、狙ったカモに対面できる機会を得られる。

 SNSは基本的に会うことが前提となっていないため、対面できるところまでもっていきづらい。ところが、マッチングアプリは恋活や婚活が目的のため、リアルで顔をあわせることを前提としたメッセージのやりとりから始まる。「会いましょう」と持ちかけることも不自然ではないし、むしろ相手から誘われることも普通に起きる。SNSでの誘いに比べると、会うまでの敷居がとても低いのだ。

 詐欺グループの多くは、いったん出会って相手に気を許させたあと、マッチングアプリではなく、LINEなど別の手段で直接、連絡を取りましょうと持ちかけてくる。マッチングアプリ内部のメッセージやりとりは有料なものが多いため、便利にしてくれると思うかもしれない。しかし、二人の関係をアプリの外へと早く持ち出そうとするその誘いには、別の目的がある。

 多くのマッチングアプリでは、アプリ上でやり取りをしていた場合、運営会社がメッセージなどを監視している。問題あるユーザーだと判断されると、その人には何らかのペナルティが課され、強制退会処分などにしてくれるのだ。つまり、自分の前だけでは行儀良く取り繕っていても、不審な言動を運営が発見して正体を晒してくれるのだ。だが、早々に二人の関係がアプリの外側だけになってしまうと、監視の目が行き届かない。

 二十代の会社員女性は「会った後に問題ある人だとわかったが、LINEなどを交換していたのでしつこくて困った」という体験を語ってくれたもしアプリで連絡を取り続けていれば、嫌な思いをせずに疎遠に出来たはずだ。

◆直接会った後は通常の詐欺と変わらない

 前述したように、マッチングアプリは運営会社がアプリ内でのユーザーの動きを監視したり、ある程度の身元を確認しているため、出会い系サイトと比べると安全性が高いと言えるだろう。

 しかし、リアルで相手と直接会った後には、通常の出会いと同じリスクが待っている可能性がある。2019年2月には、男がアプリ上で知り合った複数の女性からお金を騙し取る事件が起きている。デートの後、財布を落としたと言ってお金を騙し取っていた。男は偽名を使い、職業や年収なども偽っていた。

 現実の日常生活だけでは出会いが難しいが恋愛や結婚などを望む人たちにとって、マッチングアプリは有用なものだ。しかし、オンラインでも会った後もリスクはある。個人情報は相手が信頼できると確信できるまで教えすぎない、会う時間も昼間に設定し、二人きりになることは避けて会うなどの工夫が必要だろう。

 アプリでの情報交換で、とても気が合うと感じても、それはあくまでも画面越しのものだ。SNSでの書き込みと、そのアカウントの本人に会った時に印象が食い違うように、アプリでの印象は現実の本人のごく一部分しか見えないものだ。よく知らない人との関係を探している現実を忘れず、万一に備えて安全性を確保した状態でやり取りしたり、会ったりするようにしてほしい。

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