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コラム

2019.06.15 16:00  マネーポストWEB

氷河期世代が直面した過酷な就活と植え付けられた劣等感

就職氷河期世代に特有の心理とは

 バブル経済の崩壊後、1990年代半ばから10年間ほどの間、大規模な就職難が社会問題となった。この間に就職活動をした「就職氷河期世代」は、人口の多い第2次ベビーブーム世代(団塊ジュニア)とも重なっており、多くの就活生が数少ない内定の椅子を奪い合うという苛烈な競争を強いられた。1996年に就職活動をしたネットニュース編集者の中川淳一郎氏も、そんな世代のひとりだ。中川氏が当時の就活事情を振り返りながら、氷河期世代特有の心理を読み解く。

 * * *
 5月下旬、とある地方都市の新しい私立大学で講義をしてきたのですが、学生と色々喋ったら驚きました。4年生は軒並み内定を取っていて、こんな感じの発言をしているのです。

「今内定を持っている会社に行く可能性は75%。あと1社の結果を待ってから決めたいです」
「できれば東京勤務になりたい。それ以外だったら大阪か名古屋。他になったらドン引き」
「周りもみんなもう内定は持っている。持っていない人は珍しいかな」

 最近の就職活動は「売り手市場」になっているとは聞いていましたが、ここまで皆さん内定を獲得できるまでに新卒の採用が進んでいるのは実にめでたい状況です。今や企業は早期退職制度をチラつかせ、ダブついた定年間近世代やバブル世代をさっさと放逐し、若い人々を採りたいと考えているのでしょう。

 となると、私のような氷河期世代からすれば「なぜ、アノ時は採ってもらえなかったの?」とも思うのです。そこそこの大学に行っていれば1部上場企業の内定を容易にもらえたという、バブル期の先輩就活生たちの逸話も、よく聞き及んでいました。だからこそ、氷河期世代は予想外の苦戦に戸惑いました。特に女子学生は悲惨です。何しろ、応募すらできないのですから。

 当時はリクルート他、数社から男子学生と上位大学の女子学生の元には勝手に分厚い冊子が送られてきていました。これは会社紹介の冊子で、ハガキもついています。このハガキに必要事項を書いて送れば会社案内が送られてきて、書類提出やセミナー参加ができるようになるのです。

 先ほど「男子学生と」と書きましたが、いわゆる現在における「Fラン大学」の男子学生にはもしかしたら来ていなかったかもしれません。不人気企業のハガキには料金後納ハガキがついており、切手は不要でしたが、一部人気企業の資料請求をするには切手を貼る必要もありました。

 かくして男子学生はとりあえず「エントリーはできる」状態だったのですが、女子学生は、まずこれらの冊子を入手する必要があります。男子学生があらかた人気企業のハガキを切り抜いた後の冊子を頭を下げてもらい、そこから不人気企業に資料請求をすることとなるのです。

 企業の側としては「あれ、オレらこの大学の女子に送ってないけどな……」なんてことは思いつつも、「まぁ、いいか」とばかりに会社案内に参加させてくれました。しかし、「こいつ、絶対に知り合いの男からもらったな。参加させてやるわけねーよ」とばかりに返事さえしてくれない企業もありました。私の姉や友人女性たちはこうした経験をしています。

◆「人生再設計世代」と呼んでもらっても、もう遅い

 そして、実際に就職活動が開始すると、とにかく通らない! 120社に資料請求をし、セミナーに参加できたのは30社。内定は1社、なんてことも聞きました。私自身は17社受けて広告代理店1社の内定をもらえましたが、採用数は通常は100~120人のところ、私の年は66人しか採っていません。

 そんな年の新入社員になったものですから、翌年も氷河期は続行中で入社2年目になっても担当部署に新人は入ってきませんでした。先輩社員は「今年も最若手で良かったなw かわいがってもらえるぞw」なんて冗談で言ってくれたものの、本音でいえば、後輩が欲しかった。

 ようやく3年目に後輩は入ってきましたが、2年目に「先輩」としての経験ができなかったのは、社会人としての成長の遅れにも繋がったかもしれません。「雑用期間」が2年続いただけではないか、なんてことすら考えてしまいます。

 いや、こんなことを言っていても、私は恵まれていたと思います。なにしろ我々の同世代は正規雇用を獲得すること自体が難しかった世代です。職場にも同世代の派遣社員が何人も入ってきました。本来であれば、正社員として私と同じ会社に入れたかもしれない方々です。なかには、金持ちの家庭のお嬢さんで、あくまでも“結婚までの繋ぎ”として派遣社員をやっていることを公言する人もいましたが、「私、内定ひとつも取れなかったんだよね。中川さんのこと、正直羨ましくてしょうがない」なんて言う方もいました。

 そんな正規への道があまりにも狭かったボリューム世代の我々に対し、政府はこれから3年間で30万人の正規雇用を推進する戦略を取ると発表。「氷河期世代」ではなく「人生再設計世代」と呼んで下さるようです。

 でも、もう遅い。せめて35歳までに同様のプログラムをやってほしかった。結局、低賃金&不安定な雇用もあったがゆえに、結婚すらままならず、第2次ベビーブーム世代の我々は「第3次ベビーブーム」を作ることができなかった。今さら非正規から正規雇用になったところで、新たなスキルを獲得するには年を取りすぎているし、それで皆が結婚できるようになるとも思えない。

 2017年に「牛乳石鹸」のネットCMが炎上しました。俳優・新井浩文がサラリーマンの父親役を演じ、息子の誕生日に早く帰る約束をしていたのだけれど、その日は居酒屋で部下の愚痴に付き合って帰るのが遅くなり、妻からなじられる、といった内容でした。その中で、主人公は、「(バブル期に30~40代だったであろう)父親ができたことを中年になった私はできていない。実に情けない」と考えます。

 炎上の理由は様々でしょうが、私はあのCMの主人公の「オレは“普通の生活”さえ家族に提供できていないのか」といった氷河期世代ならではの嘆きは案外共感できましたし、炎上した時は、「あぁ、こう嘆くことさえ非難の対象になるんだな」と暗澹たる気持ちになりました。

 親世代が当たり前のようにできたことが、自分たちにはできなかった。それはこれからも変わらないだろう──これが、時代に翻弄された氷河期世代が抱える心理であり、諦めにも似た劣等感につながっているのではないでしょうか。

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