擁護するつもりはないので、娘にも母親にも肩入れしないようにと気をつけてました。子供たちの状況がわかる章をはさむことで、こんな酷いことをした女たちだということを思い出しながら書いていた。だいたい女の人が虐待やDVの話を書くと、男が悪いとなりがちでしょ。確かに、『つみびと』に出てくる男たちも悪いんだけれど、描写に徹することで、あえて男の人の心の中には入っていかないように書いています。
──だから母と娘の物語としても読めるし、蓮音が孤立して絶望に向かっていく過程もよくわかりました。
山田:彼女らの人生で、男は要因。それ以上でもそれ以下でもないということが書きたかったんです。大した男じゃない、それでも躓くには十分だった。じゃあ、なんで躓いてしまうのかというと、小さな頃からの体験であったり、人との結びつきであったり。過去が作ってきた自分というものがある。過去がどういう影響を及ぼし、どういう化学反応が起きて今の自分を作っているのか。そこに至らしめたのは何なのか。どういう環境なのか。そう考えていくと必ずしも責任の所在はひとつではないし、一人ではありません。
◆トラウマになっていることって繰り返し繰り返し引き受けてしまう
──参考文献は殺人者たちを取材したもの、この事件を追ったもの、そして女子刑務所の内部を取材した3冊のルポだけです。ネット情報なども集めたのですか。
山田:ネットは全然見てません。『週刊文春』で連載されていた小野一光さんのルポ「殺人犯との対話」に、2週続けてあの事件が載ったんですね。殺人者たちを取材した連載は毎週面白かったんだけれど、やっぱり心惹かれたのは彼女だけでした。私にはあの2週で十分だった。
この事件って、彼女の顔がいっぱい出たでしょう。制服を着た写真とか、着飾った風俗の写真とか。可愛いんだけれど、哀しい顔してるんですよね。地方にいて、知識や教養をつけることもなくきて、一所懸命虚勢張ってるような感じがして。
──逮捕されたあと、そんな状況になっているとは知らなかったという周囲の人の声を弁護士から聞いた蓮音は、「幸せじゃない自分を知られるなんて死んだ方がましですよ」と吐き捨てますね。
山田:今って、そういう子、多いんじゃないでしょうか。昔は幸せだと証明する場所もあんまりなかったけれど、今はインスタグラムとか、幸せのアピール合戦の場所がたくさんある。本当に幸せな人はそんなことしなくていいのにね。
〈この土地には、さまざまな怒りが渦を巻いていて出口を捜しているのだ。それが男によるものなら、その発露として、暴力や性が利用されるのなんて日常茶飯事。〉
──地方の閉塞感も痛いほど伝わってきました。
山田:取り残され、疎外された地方都市の怒りの捌け口は、弱い者へ弱いものへ向かっていくという構図ですよね。「時代が進んで、世の中は便利になった」と都会にいる人は思っているけれど、因習に囚われた村の閉鎖性って全然変わっていないと思う。