ライフ

名医とは「陰性感情」に気づける医者【香山リカ氏書評】

『仮病の見抜きかた』/國松淳和・著

【書評】『仮病の見抜きかた』/國松淳和・著/金原出版株式会社/2000円+税
【評者】香山リカ(精神科医)

 どんなに食事や運動に気をつけていても、私たちはときとして体調を崩す。そして、数日様子を見ても回復しないときは、クリニックでも大病院でも、とにかく医者のもとを訪ねることになる。

 しかし、もしその医者があなたを診察し、「どこも悪いところはないですね。会社を休みたいだけじゃないですか?」と冷めた態度で言ったらどうなるだろう。「仮病だって言いたいのか!」と腹を立てるだろう。さすがにそこまでストレートに言う医者はいないと思うが、残念ながら似たような態度を取り、「これ以上、診てもらいたいならメンタルの方に行って」と追いやるように私のような精神科医を紹介する人もいる。

 総合診療と呼ばれる「原因のわからない病気の診断と治療」の第一人者である著者は、そんな風に一度は仮病と疑われた人たちに「待てよ」と臨床医としての目を向ける。そして、仮病と見えたその背後に珍しい感染症や神経の病気が隠れているのを発見したり、逆に奇病としか思えない症状や検査所見が失恋やサプリメントの過剰摂取によるものであると見抜く。

 それが小説仕立てになっているのだから、医療に興味のある読者はそれだけでも感心するだろうが、それ以上に目を奪われるのが、医師の「陰性感情」のパートだろう。プロであるべき医者も、患者のあまりに理にかなわない言動に接すると、ついネガティブな感情を抱いてしまう。そして、それが診断の目を曇らせてしまうことがある、というのだから恐ろしい。

関連キーワード

関連記事

トピックス

元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
文房具店「Paper Plant」内で取材を受けてくれたフリーディアさん
《タレント・元こずえ鈴が華麗なる転身》LA在住「ドジャー・スタジアム」近隣でショップ経営「大谷選手の入団後はお客さんがたくさん来るようになりました」
NEWSポストセブン
日本テレビの杉野真実アナウンサー(本人のインスタグラムより)
【凄いリップサービス】森喜朗元総理が日テレ人気女子アナの結婚披露宴で大放言「ずいぶん政治家も紹介した」
NEWSポストセブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
伊勢ヶ濱部屋に転籍した元白鵬の宮城野親方
元・白鵬の宮城野部屋を伊勢ヶ濱部屋が“吸収”で何が起きる? 二子山部屋の元おかみ・藤田紀子さんが語る「ちゃんこ」「力士が寝る場所」の意外な変化
NEWSポストセブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
今年の1月に50歳を迎えた高橋由美子
《高橋由美子が“抱えられて大泥酔”した歌舞伎町の夜》元正統派アイドルがしなだれ「はしご酒場放浪11時間」介抱する男
NEWSポストセブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
STAP細胞騒動から10年
【全文公開】STAP細胞騒動の小保方晴子さん、昨年ひそかに結婚していた お相手は同い年の「最大の理解者」
女性セブン
逮捕された十枝内容疑者
《青森県七戸町で死体遺棄》愛車は「赤いチェイサー」逮捕の運送会社代表、親戚で愛人関係にある女性らと元従業員を……近隣住民が感じた「殺意」
NEWSポストセブン