「やってみると、大変だけど学生とか若い頃に手作りでやっていたような楽しさがありまして。全てお膳立てされた上で出演する──というのではなくて。
それに、大きな舞台でやっているとリアリティに欠ける芝居をしてしまっているんじゃないか、という不安があるんです。小さいところだと、そのごまかしが利きません。『お芝居お芝居』ではない臨場感をまた体験したいなと思うようになっていたんですよね。つかさんの芝居みたいにあり得ないテンションでも役者のリアリティはちゃんとある芝居を。
それなら自分たちでやろうということで、『この人』と思った作家さん、演出家さんにお願いして、一、二年に一本ずつ。何十人の劇場でね。採算もトントンぐらいでいいと。最初のうちは『やることに意義がある』みたいな。
稽古して挑んでいきながら、自分自身を再生させていく感じがありました。それは僕一人では無理なんで、妻と二人三脚、それに手伝ってくれるスタッフもいて。稽古期間は他の仕事はなかなかできないからキツいこともありますが、芝居をする楽しさを教えてもらっています。
十二月にも下北沢のザ・スズナリでやります。これは、とてもいい作品なんですよ」
《ずるずると》から始まった役者人生も、気づけば半世紀近くも続いたことになる。
「いまだにやれているのは、お芝居をしていると『生きていてもいいんだ』という実感みたいなものがあるからです。
僕はどちらかというと人と会うのが苦手なのですが、役を通して間接的に人と繋がることができる。それがないと人と会うのが怖くなってしまうかもしれません。恥ずかしい表現ですけど──作られた人物を演じることで、その人を好きになれる。そうすることで人間を愛せる」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
■撮影/木村圭司
※週刊ポスト2019年8月9日号