◆カウント途中で投手を代える“妙味”
夏の山梨大会4連覇を成し遂げた山梨学院・吉田監督は、前任の長崎県立清峰で2009年センバツを制した実績を持つ。清峰時代は今村猛(広島)を筆頭に、絶対的なエースがいたため、「先発完投」による戦いが主流だった。それが、山梨学院に移ってからは「継投」に転換した。
時折、必殺技として見せるのがカウント途中による継投だ。1ボール2ストライクなど、打者を追い込んだところで、スパッと交代する。2016年夏の長崎商戦で、この継投を見事に成功させた。左腕の吉松塁から、右腕の栗尾勇摩にスイッチし、栗尾がスライダーで空振り三振を奪った。
「先発投手の代え時がきているのが前提になりますが、追い込んでからの絶対的な決め球を持っていないピッチャーの場合は、こういう継投を使います」(吉田監督)
この夏は5回コールド勝ちで終わった初戦を除くと、3回戦以降の4試合はすべて継投。決勝戦は左上の相澤利俊(3回2/3)、右横の佐藤裕士(5回1/3)のつなぎで、ライバル東海大甲府を1点差で下した。
「継投のいいところは、山梨の暑さに対応できることです。今年は例年よりも暑くなる時期が遅かったですが、それでもエースひとりでは厳しい。継投であれば、ピッチャーにかかる負担を軽減できる。それに複数のピッチャーがいることで、相手の打線に合わせた使い方をすることができます」(同前)
例年、左上、右上、右横の3タイプを必ず揃えている。特に左上は必須で、今年はエースの相澤が左上だ。
「間違いなく、高校野球は左ピッチャーが有利。これには理由がふたつあって、ひとつは一塁ランナーの足を止めることができるから。もうひとつは、ポイントとなる打順に右投左打が多く、特に外のボールを当てにいくタイプが多い。左腕と対決している絶対数も少ないはずです」(同前)
「左対左は左投手が有利」という野球界のセオリーがあるが、これはデータにも表れている。2018年夏の甲子園におけるOPS(出塁率+長打率)を調べると、以下のような数字となった。プロ野球でも同じような傾向が出ているのだが、左投対左打はOPSがもっとも低くなる。
・左投対左打 .657
・左投対右打 .829
・右投対左打 .755
・右投対右打 .669
吉田監督は右打者に対しては、右のサイドを効果的に使う。高校入学後にサイドに転向することが多く、「サイドの角度が出るかどうかが成功のカギ」と語る。具体的にいえば、右バッターの外に逃げていき、左バッターの内に食い込む球筋を持っているかどうかだ。佐藤も高校からサイドに転向して、生きる道を見つけた。