国内

「表現の不自由展・その後」展示中止の現場を訪れ考えたこと

展示中止を知らせる掲示板

 立場やスタンスを超えて議論を巻き起こす形となった“事件”について、コラムニストの石原壮一郎氏が考察した。

 * * *
 残念な形で注目を集め、たくさんの抗議も集めて、わずか3日で展示中止に追い込まれた「表現の不自由展・その後」。8月1日から愛知県で始まった国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」(10月14日まで)で企画された、数多くある展示のひとつです。

 スタート翌日の2日に河村たかし・名古屋市長が視察に訪れ、従軍慰安婦問題を象徴する「平和の少女像」などについて「日本人の心を踏みにじるもの」と批判。ニュースを見て「おっと、これは早く行かないと見られなくなるかも」と思い、4日に会場を訪れる予定を立てました。ところが、事態は予想以上にスピーディに進展し、3日いっぱいで展示は公開中止に……。

 間に合いませんでしたが、どんなふうに中止されているのか、訪れた人はどういう様子なのか、せっかくなのでこの目で見ておこうと、愛知芸術文化センター8階の愛知県美術館ギャラリーに行ってみました。この会場だけのチケットがあるわけではなく、すべての会場で有効な一日チケット(一般1600円)を買わないと入れません。ちなみに、会期中は何度でも使えるフリーパス(一般3000円)もあります。

「表現の不自由展・その後」のコーナーは、愛知県美術館ギャラリーの奥の奥にある「A‐23」という小さな部屋。ギャラリーの入口とコーナーの入口に〈「表現の不自由展・その後」は展示中止となりました〉という案内が立てられていました。「中止初日」とあって、首からパスを下げ、テレビカメラや一眼レフカメラを持った報道陣の姿が目立ちます。

 一般のお客さんの多くも、スマホなどで中止の案内を撮っています。中止になったことは前日に大きく報じられていたので、案内を見てガッカリしている様子の人はいません。「表現の不自由展・その後」のコーナーに続く入口は、巨大な白いパネルでふさがれて中をのぞくこともできませんでした。

 たまたま居合わせた県内在住という推定50代の紳士と、しばし世間話。「中止になっちゃって残念ですね」と話しかけると、穏やかな口調で「そうですね。まさかこんなに早くねえ」と答えてくれました。あれこれ話すうちに、その紳士は「河村市長は『日本人の心を踏みにじる』とか何とか言ってましたけど、大切なものを踏みにじっているのは市長のほうですよ」とも。おお、穏やかそうに見えて意外に熱い方でした。

 今に始まった話ではありませんが、日本では政治家が率先して「表現の自由」や「言論の自由」を押しつぶそうとします。そして昨今の日本では、そんな政治家が強く批判されるどころか、むしろ多くの支持を集めてしまうところに、強い違和感を覚えずにはいられません。さすが「報道の自由度ランキング」で、ここ5年ほど60~70位台に甘んじている程度の国です。

 政治家にせよ一般人にせよ、「ケシカラン!」と目を吊り上げている人たちはよくわかっていらっしゃらないようですが、そもそも「表現の不自由展・その後」は、過去に抗議や忖度によって公立美術館などから「排除」された作品を集めたもの。なぜ消されたのかを考え、議論するきっかけにするのが狙いです。そもそも賛否や好き嫌いが別れる作品を展示することに意義があるわけで、個別の作品を批判しても仕方ありません。

関連キーワード

関連記事

トピックス

《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
大阪桐蔭野球部・西谷浩一監督(時事通信フォト)
【甲子園歴代最多勝】西谷浩一監督率いる大阪桐蔭野球部「退部者」が極度に少ないワケ
NEWSポストセブン
がんの種類やステージなど詳細は明かされていない(時事通信フォト)
キャサリン妃、がん公表までに時間を要した背景に「3人の子供を悲しませたくない」という葛藤 ダイアナ妃早逝の過去も影響か
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
女性セブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平の通訳・水原一平氏以外にもメジャーリーグ周りでは過去に賭博関連の騒動も
M・ジョーダン、P・ローズ、琴光喜、バド桃田…アスリートはなぜ賭博にハマるのか 元巨人・笠原将生氏が語る「勝負事でしか得られない快楽を求めた」」
女性セブン
”令和の百恵ちゃん”とも呼ばれている河合優実
『不適切にもほどがある!』河合優実は「偏差値68」「父は医師」のエリート 喫煙シーンが自然すぎた理由
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン