芸能

柳亭小痴楽 独自解釈を重ねる新真打の魅力

 小痴楽は『大工調べ』を三遊亭小遊三から教わった。棟梁に肩入れし、怒りにまかせて啖呵を切る小痴楽に小遊三は「お前の気持ちもわかるけど、大家は悪くないからな」と言ったのだという。「確かに!」と納得した小痴楽は、志ん朝演じるお白洲の場面での「あと八百渡せばこんなことにならなかった」という奉行の台詞に共感。

 そう考えると与太郎も最初から謝ろうという了見がないし、上の者も口の利き方を知らない、なのに大家が一方的にやり込められるのは可哀相だ……と思っていたときに談志の著書を読み、「これだ!」と思って立川左談次に筋を通し、このサゲを用いているのだという。さらに小痴楽は大家の反論については史実を踏まえた独自の解釈も加えている。こうした工夫こそが、古典落語を自分のものとするうえで何より重要なのである。

 2013年に「成金」が結成された当時、最も売れていたメンバーは桂宮治だった。また「成金」が生んだ最大のスターは講談の神田松之丞だったのも事実だ。だが小痴楽は、今回の単独昇進で「成金」という括りを離れるのを好機とし、「若手真打」としてのロケットスタートを切るに違いない。僕はそう信じている。

●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。

※週刊ポスト2019年8月16・23日号

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