ライフ

平野レミさん「新巻鮭と格闘」「家族にご飯」のいとしい日々

『トラとミケ』に登場する食べ物の魅力を語る平野レミさん

 動物写真家・岩合光昭さんがメガホンをとった映画『ねことじいちゃん』の作者・ねこまきさんが描いた最新シリーズ『トラとミケ いとしい日々』。どて屋「トラとミケ」を舞台に織りなす人間味たっぷりの猫だらけマンガだ。現在3刷を数えるロングセラーの本書に寄せられる感想で多いのが「くさくさした心がほっこりする」「癒やされる」といったものとともに「美味しそう!」「昔、親が作ってくれた料理を思い出した」というもの。料理愛好家・平野レミさんはこの作品をどう味わったのか。話を聞いた。

 * * *
 やっぱり食事って大事よね。『トラとミケ いとしい日々』を読んで、改めてそう思いました。この作品には美味しそうな食べ物が次々と登場するから、料理欲が湧いてきます。でも、ただ料理欲が湧くだけじゃないのが、このマンガの魅力でしょう。ページをめくっているうちに、すっかり忘れていた、食にまつわるほのぼのした昔の思い出が次々と蘇ってきて懐かしくって。

 第9話「歳末の候」で、トラとミケに北海道から新巻鮭のクリスマスプレゼントが届きます。そのシーンを読んで、まだ若い頃、年末になると夫へのお歳暮で、新巻鮭が何本も自宅に届いたことを思い出しました。やっと1本捌いた! と、ホッとしたのも束の間、また次の新巻鮭が届いて、連日のように新巻鮭と格闘していたものです(笑い)。当時に比べると、今は新しいキッチンツールがたくさんできて、料理もずいぶん楽になりましたね。

 飲食店で出す料理も機械化が進んでいます。私自身、主婦の皆さんがもっとラクに、楽しく料理できるようにと手抜き料理を推奨していますし、便利なキッチンツールも開発していますので、機械化にも手抜きにも異論はありません。でも、この本を読むと、たまには一から十まですべて手作りにこだわる時間をかけた料理もやっぱりいいな、と思います。手間をかけた分はちゃんと、心はこもりますからね。

 例えば、第1話「陽春の候」に出て来る、名古屋名物のどて煮をめぐるエピソードもそう。ある日、仕込みの時間に業者の人が来て「串打つのしんどいやろ? うち 串打ち済みの商品もあるよ?」とトラに提案します。でもトラは、「機械で打った串じゃ 同じ味は出せないのよっ」と頑として断る。高齢の体で1本1本、手で刺すのは、ひと苦労でしょう。それでもトラは、お父さんからの味を大事に受け継ごうとしているんですね。

 料理には、どんなに合理化が進んでも忘れたくない作り方があります。第3話「向暑の候」に登場したぬか漬けもその一つ。トラは、お庭で採った甘夏の皮を干して、ぬか床に入れます。なぜだと思います? 昔から、ぬか床にはみかんや柚子の皮を入れると旨みが増して、色みもきれいになると言い伝えられているんです。日本には、食に関する古き良き知恵がたくさん残っています。今の若い人がこの本を読んだら、きっと素晴らしい発見があると思いますよ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
大阪桐蔭野球部・西谷浩一監督(時事通信フォト)
【甲子園歴代最多勝】西谷浩一監督率いる大阪桐蔭野球部「退部者」が極度に少ないワケ
NEWSポストセブン
がんの種類やステージなど詳細は明かされていない(時事通信フォト)
キャサリン妃、がん公表までに時間を要した背景に「3人の子供を悲しませたくない」という葛藤 ダイアナ妃早逝の過去も影響か
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
30年来の親友・ヒロミが語る木梨憲武「ノリちゃんはスターっていう自覚がない。そこは昔もいまも変わらない」
女性セブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平の通訳・水原一平氏以外にもメジャーリーグ周りでは過去に賭博関連の騒動も
M・ジョーダン、P・ローズ、琴光喜、バド桃田…アスリートはなぜ賭博にハマるのか 元巨人・笠原将生氏が語る「勝負事でしか得られない快楽を求めた」」
女性セブン
”令和の百恵ちゃん”とも呼ばれている河合優実
『不適切にもほどがある!』河合優実は「偏差値68」「父は医師」のエリート 喫煙シーンが自然すぎた理由
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン