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2019.09.09 16:00  マネーポストWEB

英ジョンソン首相、ブレグジット実現で英国経済が直面する3つの問題

「イギリスのトランプ」とも称されるジョンソン首相はブレグジットに突き進もうとしている(イラスト/井川泰年)

 イギリスのボリス・ジョンソン首相は、10月末日をもって、イギリスのEU離脱(ブレグジット)の実現を目指している。だが、それが実現した場合、イギリス経済はどうなるのだろうか。ブレグジットが抱える問題点を、経営コンサルタントの大前研一氏が指摘する。

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 9月3日にイギリス議会が再開される。そしてここからイギリス発の大波乱が幕を開ける。

 周知の通り、イギリスではテリーザ・メイ前首相の辞任に伴う与党・保守党の党首選に勝利したボリス・ジョンソン氏が7月下旬、新首相に就任した。日刊紙『デイリー・テレグラフ』の記者や週刊誌『スペクテイター』の編集長などを経て2001年に政界入りし、ロンドン市長や外相を務めた人物だ。

 その外見や強硬かつポピュリズム(大衆迎合主義)の政治姿勢、失言の多さから「イギリスのトランプ」の異名をとるジョンソン首相が目指しているのが、10月31日の「ブレグジット(イギリスのEU離脱)」だ。

 しかし、これには大きく三つの問題がある。

 まず、現在はイギリスからEUに輸出する工業製品の関税は無税だが、離脱後は関税を課されるため、EU市場における競争力が大きく低下する。だから、すでに多くの企業がイギリス国外に移転するか、事業を縮小している。日本企業も、パナソニックとソニーが欧州本社をオランダに移し、本田技研工業は撤退を発表、日産自動車もイギリス中部にあるサンダーランド工場での「エクストレイル」次期モデル生産計画を取りやめた。

 二つ目の問題は、イギリスの農家と消費者への打撃である。たとえば、イギリス産の羊肉は国内市場が小さいため、7割くらいをEUに輸出している。それに関税が課されて検疫も必要になったら工業製品と同じくEU市場で競争力が低下し、羊の畜産農家はにっちもさっちもいかなくなる。

 一方、EUから輸入している野菜や果物などの生鮮食料品は、イギリスがEUを離脱した場合は検疫や通関に時間がかかるため、ドーバー海峡のフランス側カレーやイギリス側ドーバーの港でトラックが数日から数週間も長蛇の列を作るのではないかと危惧されている。医薬品もイギリスで製造していないものがたくさんあるため、政府が国民に備蓄を呼びかけるという事態になっている。

 三つ目の問題は人材だ。EUの加盟国間ではモノ、資本、サービスに加えて人も自由に移動できる。だからイギリス企業は研究開発や医療関係の分野で東欧諸国などから優秀な人材を大量に採用しているし、飲食業や小売業もEUからの労働力に大きく依存している。このためイギリスがEUから離脱して「人の移動の自由」がなくなったら、研究開発や病院の人材が不足し、飲食店や小売店も人手不足で成り立たなくなってしまう恐れがあるのだ。高度な研究に対するEUからの補助金も打ち切られることになるので、研究機関は今のレベルを維持できなくなる。

 そうした問題があるにもかかわらず、ジョンソン首相は「何があっても延期はしない」「決定権は私にある」などと表明し、「ハード・ブレグジット(EUとの合意なき離脱)」に突き進もうとしている。

 再開された議会では、最大野党の労働党などがジョンソン内閣不信任案を提出するだろう。イギリス議会の下院は保守党と閣外協力の与党を合わせても野党を実質的に1議席しか上回っていないため、反ジョンソン派の保守党議員が造反して不信任案が可決される可能性が高いと思う。

 その場合、14日以内に改めて信任されなければ、現首相以外の勢力が政権を樹立できる。労働党のジェレミー・コービン党首はこれを利用して自身を暫定首相とする「反ジョンソン内閣」を結成し、EUに離脱時期の延期を申請した上で、改めてブレグジットの是非を問う解散総選挙に打って出る方針だと報じられている。

 だが、コービン党首は日によって言うことが変わる煮え切らない人物で国民の人気も低いため、不信任案が可決されても暫定内閣が成立しない可能性もある。そうなれば、ジョンソン首相は解散総選挙を遅らせてハード・ブレグジットを強行するという観測も浮上している。

 いずれにしても解散総選挙の争点は、ブレグジットの是非を問う国民投票をもう1回やるかどうか、になる。直近の世論調査によると、残留派は48%、離脱派は38%で、投票しない人や分からないと答えた人を除くと残留派が56%、離脱派が44%だ。したがって、もし再び国民投票が実施される可能性があれば、EU側も喜んでブレグジットの延期に応じるだろう。

※週刊ポスト2019年9月13日号

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