とはいえスポーツ特番のキャスター選びには、政治的な配慮が関与することもある。その局の人気番組に長年にわたり貢献してきたり、これから制作する新番組への出演交渉をスムーズにするための呼び水として利用されることもある。
タレントや俳優のように、人に見せる表現力を持っている場合は形を整えてくれるからいいですよ。とこぼすのは、スポーツ紙の五輪担当記者だ。競技の解説やスポーツイベントの企画などで、五輪メダリストなどに登場をお願いすることが少なくないが、この人選がもっとも悩ましいという。
「五輪メダリストなど知名度がある人からお願いするのですが、はっきりいって、その人が活躍していた競技についてでさえ、何を言っているのか分からないような人もいます。なかには、有名人ではあるものの、世間的な好感度を考えるとイマイチな人もいます。でも、実績がある有名選手だと、企画をもちかけたときに現役選手が喜んで会いたがるんですよ。世間からの好感度と、アスリートからの好感度って違うんです。その結果、以後の取材がしやすくなることもあります。テレビもきっと、同じような事情であの元選手にお願いしているんだろうなと思うことが時々あります」
新しい分野での活躍を目指し、努力して表現力を磨く人もいるので、すべての元選手が周囲や読者、視聴者を困惑させているわけではない。だが、多くは混乱させ「撮れ高がない……」とぼやくのが恒例行事となっている。
本来、メディアは読者や視聴者が読みたいもの、見たいものを求めるべきなのだろう。それが、本来の取材対象者である現役選手に対して取材しやすくなるから、という回りくどい事情で、一般読者や視聴者からは疑問があがるような解説者やキャスターの人選が行われている。
「いまの五輪選手への取材は、スポーツというよりも芸能です。取材可否の判断基準も、本人の気分に左右されることが少なくない。彼らの意欲がわくようなお膳立てが、世間とは少しズレることもあるかもしれません。なんとか見過ごしてもらって、主役たるべき現役選手が登場していることを評価してほしいのが本音です」(スポーツ紙五輪担当記者)
普通ではあり得ないお祭り騒ぎになっているだろう2020年の東京五輪では、どんな有名人や元選手がメディアでの活躍を認められるだろうか。