大橋洋平先生の本の帯には「あきらめる、そして頑張る」とあった。がんが進行するとできなくなることが増える。大橋医師は、たくさんのことをあきらめてもいいと言うのだ。それでも、自分はがんばってしぶとく生きたいし、ほかの患者さんにもしぶとく生きてほしいと励ましている。
ぼくは『がんばらない』『あきらめない』(ともに集英社)という本を書いた。がんばりすぎていることが多い患者さんに、時には肩の力を抜いて、最後まで自分らしく生きることをあきらめないでほしい、と思って書いた。
「がんばる」と「がんばらない」とでは真逆だが、大橋先生もぼくも、結局、同じことを言っていることに気がついた。
ただ、大橋先生の「がんばる」には、患者としての強い決意表明があり、その点で、「がんばらない」鎌田は負けたと思った。
大橋先生は著書のなかで、「がんになったら交通費半額、レストラン3割引きなんていう制度をつくったら」などとおもしろいことも言っている。冗談のようにも取れるが、患者さんの「旅行したい」「おいしいものを食べたい」という気持ちは、薬よりも効果的に痛みの緩和につながるかもしれない。
電話で話したのは30分ほどだったが、とても濃密な時間になった。彼の太陽のような明るさと正直な人柄に触れ、勉強になった。
長谷川先生や大橋先生のようなその領域の専門家が勇気を出して発言してくれることによって、医療の質が上がるように思う。結局、人を癒すのは人だ、という医療の原点を思い出した。
●かまた みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。著書に、『人間の値打ち』『忖度バカ』など多数。
※週刊ポスト2019年10月11日号