「韓国には『人事が万事』という言葉があります。大統領には大臣、大法院や憲法裁判所の長官、公務員まで人事権が集中している。政権交代があれば、政府系財団まで大統領寄りの人間が任命されます。現在の文大統領も、就任後に大法院長を大抜擢したのをはじめ、公共放送のKBSやMBCでも経営陣が刷新された。前政権との癒着を断ち切る“正常化”という名目でトップが交代したのです。
それが家族主義や人脈社会の土壌と相俟って、権力に便宜を図ってもらおうという勢力が大統領の親族や側近に接近し、腐敗が生まれやすい。権力の座から下りると法で裁かれるという繰り返しを生んでいる」
韓国の憲法では大統領の任期は5年で、再選はできない。政権末期になると大統領の求心力が下がり、腐敗が表面化する。
大統領選挙のたびに与野党が交代し、新政権は政権浮揚のために前政権の腐敗追及に力を入れる。ある意味、日本の政治には欠けている政権交代によるチェック・アンド・バランスが極端に働いているとも言える。
しかしその結果、外交的には前政権の政策を全否定する事態も起きる。「戦後最悪」といわれる日韓関係を改善させるためには、韓国憲法の特徴と、それによって起きる日本とは異なる韓国政治の特質を認識する必要がある。善隣関係を築くために対話することは大切だが、「国のかたち」が異なるという前提を無視したままでは、その対話は実りあるものにはならないだろう。
※週刊ポスト2019年10月11日号