映画『ジョーカー』が大きな反響を呼んでいる背景になにがあるのか(C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM &(C)DC Comics

映画『ジョーカー』主人公の涙の理由とは(C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM &(C)DC Comics

 同じ道化師でありながら別々の道を歩んできたジョーカーとピエロだが、いつから「悪」や「恐怖の対象」となったのか。日本では昭和中頃から、言うことを聞かない幼児に対して母親が、「いい子にしていないとサーカスにさらわれるよ」と注意したものだが、そこには決して素顔を見せないピエロに対する潜在的な恐怖が関係していた。

 これまた一説によれば、そのきっかけはホラー小説の大家スティーブン・キングの『It/イット』にあるという。子供にしか見えない、ピエロ姿の不気味な悪役が登場する本作が出版されたのは1986年、最初に映画化されたのは1990年のこと。以来、道化恐怖症(ピエロ恐怖症)という言葉も定着するようになった。

『It/イット』の悪役ピエロ誕生の背景には、1994年に死刑を執行された連続殺人犯ジョン・ゲイシーの影響も指摘されている。ジョン・ゲイシーは1970年代、パーティーではピエロに扮して子供たちを楽しませ、慈善活動にも積極的な模範的市民でありながら、少年を含む若い男性ばかり33人を殺害したシリアルキラーであった。

 ジョン・ゲイシーが同時並行で異なる顔を有していたのとは対照的に、映画『ジョーカー』の主人公は心優しい青年から〈悪のカリスマ〉に変じた。善悪二つの顔を併せ持つ者と、善から悪へ変貌を遂げた者、さらにはそうなるよう追い込んだ社会のなかでどれが一番罪深いのか。

 本作は格差社会や善人が報われない世に対する問題提起に留まらず、誰の心にも何らかの闇が潜んでおり、きっかけさえあればいつ爆発してもおかしくない現実を強く訴えかけているように思われる。

【プロフィール】しまざき・すすむ/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。著書に『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『いっきにわかる! 世界史のミカタ』(辰巳出版)、『いっきに読める史記』(PHPエディターズ・グループ)など著書多数。最新刊に『ここが一番おもしろい! 三国志 謎の収集』(青春出版社)がある。

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