以降、アメリカは官民挙げて、「食と健康」の改善に乗り出す。1990年代にはUSDA(米国農務省)や民間企業などの協力により、野菜、果物を1日5皿以上食べようという「5 A DAY」運動がスタート。この動きは海外にも広がり、2002年には日本にも協会が設立された。さらに2011年には当時のオバマ大統領夫人によって「皿の半分を果実や野菜にしよう」という「マイプレート」運動など、国を挙げての野菜の摂取に力を入れてきた。
かたや1977年のマクガバン・レポートで”理想的な食生活”の例とされた日本はどうかというと、実は1993年にひとりあたりの野菜の摂取量でアメリカに抜かれている。ヴィーガンの台頭などを見ても、もはや現代日本人よりもアメリカ人のほうが”菜食”と言えるのかもしれない。
フェイクミート企業が躍進する2つ目の理由は食糧危機だ。1950年に25億人だった世界の人口はそれから70年で3倍以上になった。2019年現在、77億人の世界人口は2030年には85億人、2050年には97億人、2100年には109億人になることが予想されている。
増大する人口自体が環境へと負荷を与えるだけでなく、人類が口にする畜産動物もまた環境への負荷が深刻だと言われる。例えば肉ならば牛肉1kgを生産するのに11kgの穀物が必要だと言われる。豚なら7kg、鶏でも4kg。人間が肉を口にするほど加速度的に環境負荷は高くなってしまうというのだ。
増え続ける人間が食肉となる畜産動物を飼うことは、そのまま雪だるま式に地球温暖化を促進させてしまう──という説がある。人間が地球環境に厳しい生き物だからこそ、環境への負荷が少ないフェイクミートが評価されるのだ。
そしてこうした要因がフェイクミート企業が躍進する3つ目の理由を加速させる。投資である。今年になって、スタートアップへの投資やIPO市場に冷え込みが見られるという。しかし冒頭にも記したように今年「ビヨンド・ミート」はナスダックに上場し、2億ドル以上の資金を調達した。「インポッシブル・フーズ」も順調に資金調達に成功し、両社とも市場の冷え込みとは無縁の快進撃だ。
その背景には最近注目を集める投資手法がある。「ESG投資」、すなわちE(Environment/環境)、S(society/社会)、G(governance/企業統治)を指標として行う投資手法のことだ。フェイクミートはまさしくE(環境)とS(社会)にかなう投資先であり、Governance(企業統治)が担保できるならば、両社がアメリカで企業規模を拡大してきたのも当然と言えよう。
アメリカは「フェイク」と呼ばれる食べ物を開発する企業を「環境」「社会」という新しい指標で高く評価するようになった。日本はどうか。環境に対する意識の立ち遅れは否めず、いまだ価格至上主義が貫かれている。かつての近江商人は「売り手よし、買い手よし、世間よし」と商いにおいて社会性を重視した。「飽食の国」を自戒する日本において、次なる食ビジネスの指針となり得るキーワードはまだ見えない。