〈第六夜〉一席目は主人の留守に奉公人たちが「ラ・マルセイエーズ」を高らかに歌う『味噌蔵』。二席目は「三夜」でネタ下ろしした一之輔の“顔芸”炸裂の『睨み返し』。
三席目は、『芝浜』の冒頭を演じて「でもこの財布、誰か落とした人が」「誰がだよ」「私が思うに……」という夫婦の会話から、「話は変わりまして」と、革財布の由来を語る新作『芝ノ浜由縁初鰹』、通称『ポル浜』へ。ポルトガル船から落ちて芝浜に漂着した男が銭形平次を巻き込んで繰り広げるスケールの大きな爆笑活劇で、小ネタの数々が回収されるカタルシスも含め、ちょっと三遊亭白鳥風(笑)。最後は「……っていうことじゃないかな」「そんなワケねぇだろ」と冒頭の魚屋夫婦の会話に戻ってサゲ。お見事!
〈第七夜〉一席目は遂に登場した十八番『粗忽の釘』。二席目、高座で一之輔が五本の指で「どれにしようかな……」と決めたのは、これまでさんざん「あんな噺は嫌い」と言っていた、まさかの『芝浜』! 一之輔は一朝譲りの志ん朝型で、美談すぎない程の良さが魅力だ。
そして三席目は「五夜」でネタ下ろししてお気に入り演目となった『意地くらべ』。こういうバカバカしい噺で七夜を締め括るのが一之輔らしい。最高のフィナーレだった。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2019年12月13日号