また、IRAから飛び出したという過激な組織のメンバーにもインタビューしました。髪の毛を丸刈りにし迫力のある雰囲気を漂わせたメンバーから「アイルランドとの統一を図るためには、あらゆる手段を取る」と言われたときには、背筋に冷たいものを感じました。
彼らは「パレスチナと連帯する」とも言っています。一見、関係なさそうに思えるパレスチナと北アイルランドにどんなつながりがあるのかというと、「自分たちの土地が不法に占領され、そこと武力で戦っているという点において同じである」ということなのですね。すでにアイルランドの旗とパレスチナの旗を組み合わせたものが置かれていました。
その一方で、プロテスタント側に行ってみると、今度は「イスラエルと連帯しよう」というスローガンが掲げられている。この場合のプロテスタントは福音派なのでしょう。福音派は、イスラエルという国があってこそ、イエスが再臨できると考えています。イギリスには福音派というイメージはありませんでしたが、こういったことも、実際に現地へ行ってみないとわからないことでした。
ベルファスト合意から20年が経ち、日本の若い人たちには北アイルランド紛争のことをよく知らないという人も多いことでしょう。IRAのテロを題材にした映画『デビル』を見ても、なぜ主人公がニューヨークの警官を訪ねてきたのかもわからないかもしれません。ニューヨークの警察官や消防士にはアイルランド系が多いのです。これにもアイルランドの悲しい歴史が関わっています。
そもそもなぜこの地域でこのような紛争が起こってしまったのでしょう? それには16世紀のイングランド王ヘンリー8世の離婚問題がからんでいるということをご存知でしたか? さらに、この王様の離婚問題が現代のタックスヘイブンの問題にもつながっています。
私が世界の国と地域を解説するシリーズ『池上彰の世界の見方』の9巻目「イギリスとEU」では、イギリスのEU離脱をとりまく問題を歴史から紐解く試みをしています。ニューヨークの警官や消防士になぜアイルランド人が多いのか、ヘンリー8世がイギリスのEU離脱にどう関わっているのかなどを解説しています。