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2019.12.24 11:21  BOOK STAND

【今週はこれを読め! SF編】寄稿者の持ち味が十二分に発揮されたオリジナル・アンソロジー

『Genesis 白昼夢通信 (創元日本SFアンソロジー 2)』水見 稜ほか 東京創元社

 創元SF短編賞出身作家を中心に編まれたオリジナル・アンソロジー《Genesis》の第二巻。第一巻『一万年の午後』(http://www.webdoku.jp/newshz/maki/2019/01/08/144902.html)と同様、ホームグラウンドだけに、寄稿者それぞれが自分の持ち味をのびのびと発揮している。

 高島雄哉「配信世界のイデアたち」では、なんと、「SF考証SF」なる新ジャンルが切り拓かれる。ご存知のとおり、著者はアニメのSF考証家としても活躍しており、その経験(業界のウラ話も含めて)が作中に投入されている。いわば、SF版『SHIROBAKO』の面白さだ。しかし、たんにネタ的なことだけではない。「SF考証」なる役割・思想—-世界に対する姿勢—-が、SFのシチュエーションのなかで主題化されているのだ。設定されている時代は2034年。総合アニメ企業〈パンサラッサ〉の新人SF考証担当、高島いであが、配信サイトの不具合(量子ウイルス侵入によるコンテンツの違和感発生)の解決に赴く。それと並行して、もうひとりの主人公であるスライム女子(名前は「ぴこまむ」)の物語も進行する。ぴこまむも、宇宙規模のアニメ配信サービス会社で、SF考証を担当しているのだ。

 石川宗生「モンステリウム」は、公園にいつのまにかあらわれた怪物によって、日常が崩れていく。といっても、怪物が直接に町を破壊するのではなく、ひとびとの意識や世界の辻褄が歪んでいくのだ。バラード「溺れた巨人」とカフカ「家父の気がかり」(オドラデクが登場する作品)を併せたような味わい。

 空木春宵「地獄を縫い取る」は、性的に蹂躙される目的で開発されたAIをめぐる物語。AIは人権がないものの、蹂躙する者の嗜虐性を満たすため、官能伝達デバイス〈蜘蛛の糸〉によるリアルな感情の移植がおこなわれる。そのリアルな感情は、生身の被害者が生活のために売ったものなのだ。狂った世界の需要と供給。こうした近未来の凄惨なありさまに、室町時代の遊女、地獄太夫の独白がオーバーラップし、作品に独特の陰翳をもたらす。

 川野芽生「白昼夢通信」は、瑠璃とのばら、ふたりのあいだに交わされる書簡で綴られた幻想小説。やりとりの端々から彼女たちが暮らす日常の静かな衰退がうかがえる。また、魂を得た人形とか、人形から魂を抜く、海に魂を流す—-といった話題がしきりに語られる。ただし、あくまでふたりのあいだの了解を前提としたやりとりなので、読者は詳しい経緯を知るすべがない。典雅で柔らかな文章が心地良い。しかし、雰囲気だけで読ませるのではなく、小説構造上の仕掛けもある奥深い作品。

 門田充宏「コーラルとロータス」は、デビュー作「風牙」以来書きついでいる記憶翻訳者・珊瑚を主人公としたシリーズの最新作。珊瑚の同僚、外国出身の事務員カマラが行方不明となる。真面目な彼女が無責任に仕事を放棄するとは考えられない。珊瑚は、カマラが自主的に会社に提供した記憶データを探り、悲しさ、あるいは喪失感とも罪悪感ともつかぬ感情にふれる。どうやら、彼女が日本へ来て就職をした事情とも深く関連しているようだが……。物語の終盤では、このシリーズを通じての主題ともいえる、過剰共感能力(ミラーニューロンの異常動作で他人の感情を自分のものとして受けとめてしまう)のありかたがふたたび検討される。

 松崎有理「痩せたくないひとは読まないでください」は、タイトルが示すとおり、肥満を題材にした近未来ディストピア小説。政府の行きすぎた健康増進政策により、ダイエット王決定戦なるイベントが企画される。国民のなかから抽選で五名の参加者が選ばれ(BMIが高いほど当選率が上がる)、選ばれたら辞退はできない。優勝すれば巨額な賞金、負ければ死という、凄まじい取り決めだ。度外れたアイデアだが、スティーヴン・キング風のガチなバトルでも、筒井康隆もしくは豊田有恒がやったようなドタバタでもなく、ほどよいユーモアに仕上げているのが松崎流。

 水見稜「調律師」は、地球が衰退したのち、火星へとわたった兄弟の物語。兄サノスケは一流の料理人、弟ジュノスケは調律師だ。おりしも火星の実業界に君臨する財団が太陽系外観測に送った有人探査機が帰還するタイミングで、サノスケは成果発表の宴会を担当するはずだった。しかし、宴会は直前で中止になる。二名からなる探査機乗員のうち、ひとりは事故で死亡し、もうひとりの乗員マイケルも異常な衰弱に見舞われていた。ジュノスケはマイケルのために、火星で知りあったピアニストとヴァイオリニストと相談し、アドリブ演奏を企画する。ストーリー上の起伏は太陽系外観測計画の裏に隠された政治的思惑があぶりだされていくところだが、テーマ的な焦点は宇宙や生命に対する音楽の意味・作用に置かれている。SFならではの際立ったヴィジョンを、抑制の効いた筆致で、ひとつの情景として描きだす。さすがベテランの貫禄だ。

 以上が小説作品で、それ以外にエッセイが二本。名アンソロジストである中村融、西崎憲のおふたりが、それぞれの編集作法を披瀝している。

(牧眞司)

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