両者が1987年からの2年間、同じ食品流通局に在籍していたことは、当時の「農林水産省職員録」(協同組合通信社)および2010年刊の「全裁判官経歴総覧」(公人社)確認することができる。
さらに、元農水省職員で、同局に出入りすることも多かったという男性からも証言を得ることができた。
「熊沢被告は砂糖類課長、青柳氏は企画課長補佐というポジションだったので、直属の上司部下ではありません。しかし、同じ食品流通局の同僚だったことには変わりない。当時、同じ部屋で机を並べ、毎日顔を合わせる関係だったと記憶しています」(元農水省職員の男性)
一方で、熊沢被告の保釈審査を、かつての“同僚”が担当することは、公正が求められる司法のプロセスとして適切だったのか。東京高裁広報係に質すと「事件の配転(※裁判官の配置転換)は事務分配規定に基づいて行われるとしか申し上げられません」との回答。熊沢被告と青柳氏の縁故を把握していたかどうかについては「法解釈に関する事項なのでお答えできません」とのことだった。
第二審で熊沢被告の量刑が見直される可能性はあるのか。弁護士法人ダーウィン法律事務所の岡本裕明弁護士は話す。
「実刑6年ということは、出所する頃に被告人は80歳を超えることになります。そう考えると、わずかでも可能性があるならと、執行猶予付き判決を求めて控訴することは妥当と思われます。ただ、裁判員裁判で下された判決を、量刑不当を理由に覆すのは非常に難しいように思います。ちなみに検察は控訴しないと見られますから、争われるのは執行猶予が付くかどうか。一審判決より量刑が重くなることはないでしょう」
東京高裁による「異例の保釈」も熊沢被告の控訴を後押しした可能性がありそうだ。
「被告人は保釈されているので、控訴審の公判中は自由の身で、奥さんとともに生活できるはずです。もし控訴審でも実刑判決が維持されたとしても、それまでに身辺整理をすることができます。その時間は夫婦で過ごすことのできる大事な時間となるはずです」(岡本弁護士)
今、熊沢被告の心にあるのは、高官としての栄光と家庭の瓦解を共にした、妻との人生の「終い方」なのかもしれない。
●取材・文/奥窪優木(ジャーナリスト)