これまではフランスやイタリアの料理店で働いていたシェフが「本場での修業」経験をひっさげて、現地の料理を再現するシェフや店が多かった。だが日本人、特に東京のマーケットは「辺境」さえも消費しつつある。2020年の東京では、物珍しい辺境食を再現しただけでは、飛びつく理由にはなりえない。その背景にある暮らしや文化の香りが漂ってこそ、辺境食は輝きを放つのだ。その一皿の後ろにある物語や背景は必ず皿の上に反映される。見知らぬ文化を味わうために、人は飲食店に足を運ぶのだ。われわれ見知らぬ土地からやってきた、食べ物にのみ惹かれるのではない。
あの「サイゼリヤ」も年末にメニューを改定した。本格的なイタリア料理店でも仕入れない酒を試験導入し、ラム肉の串焼きもグランドメニューに盛り込んだ。オリーブオイルの効いた白菜のミックスピクルスに、やさしい味の田舎風やわらかキャベツのスープ──。こうした品や使い放題のオリーブオイルやチーズからは、チェーンという業態でありながら、異国の文化を日本人にも受け入れられる形で伝えようという姿勢が感じられる。
より辺境の地から持ち帰った料理や、日本と日本人に合わせた「グローカルフード」を提供する、遠い地の暮らしと文化が香る飲食店が、今年さらに加速する。