ある意味、こうした同社の姿勢は言論の自由を守る基本姿勢に従っているとも言えるが、皮肉なことに海賊版サイトの運営者に安心感を持たせることになった。そのため、日本国内向けの海賊版サイトの大多数がX社を利用するようになり、X社の存在が海賊版サイトの跋扈を許してしまうという結果を生み出していた。

 言論や表現の自由も立派な権利だが、著作権も同じように尊重されるべき権利だ。どちらか片方の権利を露骨に侵害しているときでも、頑なに「権利があるから」という主張は続けられるものなのか。そして、一方の権利を守るためという理屈だけで、もう一方の権利侵害を防ぐ手段を講じないことに罪は無いのか。

「これまでは、X社と契約している海賊版サイト運営者の”情報開示請求”を出すことしか出来ていませんでした。漫画村の件でも、そうした流れから運営者が特定されたのです。しかし、再三の削除・差止請求を受け、違法コンテンツの存在を認識しているはずが、何らの措置もとっていないX社にも責任があると考えています」(中島弁護士)

 今一度、事例をわかりやすくして振り返ってみよう。

 Aが丹精込めて描いた署名入りの絵画を、面識のないBに盗まれた。Bは、海外の会社・Cと契約し、Cが運営するネットショッピングサイトを使って、Aから盗んだ絵画を売り始める。それを知り怒ったAは、Bの連絡先を調べ上げ、返すよう言うが無視される。警察に訴えても「外国のことだから」と相手にされない。そもそも泥棒であるBがどこに住んでいるのか、そもそもBというのが本名か、属性さえわからない。それならばとAは、Bの個人情報を知っているであろうCに「Bが盗人だ」と訴え「Bの情報」を教えるようお願いするが、それすらも断られる。CはBと「契約している」のであり、顧客の情報は渡せないという。

 C社は日本の国内法が通用しない第三国に存在する業者であり、手の出しようがないのも厄介だ。そしてここに登場するのが、C社の手伝いをしていると言うアメリカのCDN大手・X社だ。X社は、C社のデータが一般の人々に広く見られるよう調整する立場なのだ。

「X社にも、海賊版サイト運営を指摘されていたのに、放置していたという責任があると考えます。X社の責任を問う訴訟の提起は、国内では初のはず。海賊版サイトのせいで辛い思いをしている著作権者、全てのクリエイターの方々のためになれば、というのが率直な思いです」(中島弁護士)

 筆者の調べで、日本国内で相当数のユーザーを獲得しているとみられる、漫画やアダルトコンテンツの海賊版サイトの多くが、X社のサービスを利用していることが分かっている。今回の訴訟でX社の責任が司法に認められれば、かつてないレベルで、多くの海賊版サイトが実質的な運営不可能になる可能性がある。

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