習近平と人民解放軍からの圧力にどう対処するのか(Avalon/時事通信フォト)

◆「一国二制度」の否定

 だが、この勝利は奇跡だった。1年前、蔡英文が再選すると考えていた者は殆どいなかったからだ。昨年1月、蔡英文は世論調査で国民党候補にダブルスコア以上の大差をつけられていた。

 2018年11月24日、台湾では総統選の前哨戦の統一地方選が行われた。22の県市長選のうち15で国民党が勝利し、それまでの6から大躍進。年金改革などの一連の蔡政権の施策が国民の不興を買い、民衆の支持を失ったのだ。蔡英文は党主席辞任に追い込まれ、政権は危機に陥った。

 中国との一体化を目指す国民党がそのまま総統選と立法院選で勝利すれば、台湾の事実上の「中国化」が進む。日本は安全保障をはじめ国家戦略を根本的に練り直さなければならなかっただろう。その意味で今回の総統選・立法院選は、台湾だけでなく、今後の「東アジアの運命」を決するものだった。

 統一地方選大敗の衝撃が冷めやらぬ2019年1月2日、中国の習近平国家主席は、演説で台湾に対して香港と同じ「一国二制度」を受け入れるよう迫った。台湾人の衝撃は大きかった。蔡英文総統は即座に会見を開き、一国二制度受け入れを拒否。これで人気低迷の蔡氏の支持は8ポイント上昇。それでも大手TV局TVBSの昨年2月の世論調査で蔡英文25%に対し、国民党の韓国瑜は54%という大差をつけていた。

 蔡の不人気に危機感を抱いた行政院前院長(日本では首相に相当)の頼清徳・前台南市長が昨年3月、民進党総統候補に名乗りを挙げた。人気の高い頼清徳の支持率が世論調査で蔡英文を遥かに上回っていたため蔡執行部は候補決定の日付を2度に亘って延期。その間、頼に立候補取り下げの説得工作を行った。

 蔡英文後援会の最高幹部はこんな秘話を明かす。

「蔡英文にとって最も苦しい時期でした。頼清徳が総統候補に名乗り出て結果的に蔡英文に決まるまでの88日間、彼女は“睡眠薬が手放せない。この88日間が私の人生で最も苦しい日々だった”と言っていました。思い詰めた表情で、私も可哀想で涙がこぼれました」

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