埼玉県の旧鷲宮町は同地が舞台のアニメ「らき☆すた」ファンが多く訪れる。祭りでは、キャラクターを描いたみこしをファンが担ぐ様子も恒例に(時事通信フォト)
この時代に量産された恋愛・美少女ゲームでは、プレイヤーはストーリーの主人公となり、タイプが違う魅力的な少女たちと交流を深め、親しくなるのを楽しむものが大半だった。少女ごとにプレイヤーが体験できるストーリーは異なり、どのような手順を踏むかによっても変わってくる。ストーリーごとにセリフが変わるため、収録すべき声の分量が膨大になり、収録にも時間がかかった。そのため、ゲームに絡んだ女性声優バブルが発生していた。
「あのころ、ゲームの現場を嫌う声優さんもいましたし、現場によってはちょっと違うんじゃないかな、と思うところもありました。でも私たちはフィニッシャーですから、いただいた仕事とキャラクターに全力をかけるだけです」
もちろん優れた恋愛ゲームもあったが、声優と絵師(キャラクターを描く作家)の人気におんぶにだっこ、慣れないスタッフがキャスティングを握り、ひどい現場ではゲームスタッフのキャバクラか合コン会場かというほどに公私混同というものも少なくなかった。また女性声優人気への当て込み企画も乱立、数十人規模の脱退から早期解散した声優ユニットKや、恋愛ゲームで一発当てて声優事務所を作り倒産したMなど、現在ならとてもビジネスとして成立せず、コンプライアンス的にも問題にされただろう出来事がいくつも起きた。
そんな荒波を、花子さんは声優として駆け抜けた。
「私にとってはゲームのお仕事は楽しくて、チャンスをいただけたことに感謝しています。私なんかがヒロインを演じることができました。これだけでも本当に感謝しているし、両親も私の名前があることを喜んでくれました」
花子さんはイベント出演どころかキャラクターソング(作中キャラクターの歌)まで歌い、ラジオ番組もこなした。
「私なんかが歌ってほんとにいいのかなと思いました。でもプロとしてお仕事いただいていますからやりきろうと! 正直下手くそです!(笑)グラビアも、ちんちくりんな私のどこにそんな需要があるのか謎でしたが(笑)、見様見真似でポージングしました! でもいまはそれどころじゃなくて、ルックスや歌はもちろん、楽器だって何だってできなくちゃいけないんでしょう? 本当に凄いです。私なんか絶対できません」
アイドル顔負けのパフォーマンスでポージングする現代のマルチ声優のようにはできないと言うが、キャリアのある花子さんは年齢的にも声優としてはまだ中堅クラス。実績もあるし、せっかく皆があこがれる仕事を辞めるのはもったいないと思わなかったのか。
「正直なところ、ゲームすら仕事がなくなったのが第一です。若手は毎年入ってきますし、競争率が上がればこれまで以上に質の高い子ばかりが入所します。どこからも指名で仕事が来るような声優さんは別として、私のようにゲームでお仕事をいただけていたタイプが一番むずかしいんです。ヒロインの数には限りがありますし」
一斉を風靡した声優でも、鳴かず飛ばずになってしまうのがエンタメの厳しさだ。団塊ジュニアの女性声優も40代となり、年を経ても人気声優でい続けられる人はごく僅かだ。ほんの一握りの頂点と裾野、あとは死屍累々の世界だ。