犯行のきっかけになった出来事が、事件の直前に起きていた。その日、政子は長年の介護疲れもたたり、高熱を伴う風邪をひいていた。体を起こすのもやっとの状態。でも介護を代わってくれる人はいない。弱音は吐けない。何とか起き上がり、日課をこなすべく、やはりオムツに手をかけた。その姿を、夫も両親も、見ていたはずだ。
県警は政子が無理心中をはかろうとしたとみている。だが一方で、私にはどうしても、こんな疑問が浮かぶ。
1階の寝室で芳雄の首に手をかけた時、隣で眠る志のぶが気づくのではないか。まだ体も動くし、声を上げることもできる。
逮捕後、政子は取り調べに黙秘を貫いている。責任感の強い彼女の性格を考えれば、その沈黙に何かしらの理由があるように思えてならない。無理心中の計画が政子の単独ではなく、家族誰かしらとの示し合わせ、つまり“合意”があった可能性もあるのではないだろうか──。
同事件について、介護ヘルパーの資格を持つジャーナリスト・末並俊司さんはこう指摘する。
「要介護度に関係なく、高齢者と同居する家族の負担は実に大きい。介護する側、される側ともに家族が苦しまないためにも、最近は、早め早めに介護のプロの手を借りて介護をすること、施設で面倒を見てもらうことは、家族が共倒れにならないためにもとても大切なんです」
家族が、家族を思いやる。お互いを大切に思うからこそ、狭い家族の中で介護を完結させようとした。そうした家族が、ほかにも日本中にどれだけいるだろうか。この事件から学ぶべきことは大きい。
※女性セブン2020年2月6日号