情報リテラシーが求められる

 当事者を取材するほど、まとめサイトは「あなたも金持ちになれる」といううたい文句が踊る情報商材を騙されて買ってしまうような「情報弱者」である運営者が作成していることが浮き彫りになるだけだった。さらにそれを読む人たちも、ネット上に存在する自身に都合の良い、そして自身が信じたい情報のみにしかアクセスしない「情報弱者」のユーザーに他ならなかった。そのため、取材後にはいつも「あまりにも馬鹿馬鹿しすぎて、まとめサイトなどすぐに消える」と考えていたのだった。

 ところが、最初の関連取材から数年が経った今も、消えると思っていたまとめサイトはなくならず、NHKが訴えたような悪質サイトは増え続ける一方。筆者は改めて、元情報商材の販売人で事情に詳しい男性に「今何が起きているのか」を聞いた。

「まとめサイトやトレンドブログは今も増え続けていますが、大体が数ヶ月以内、ほとんどは一年以内に消えるか、放置され更新が止まります。カネにならないからです。止める人がいる一方で、月に数万円でも収益が出るサイトは、どんどん内容が過激になっていく傾向があります。例えば、事件が起きてテレビや新聞で被害者、被疑者、関係者の名前が出たら、即記事にする。犯人の顔写真は? 被害者の正体は? といったタイトルでユーザーを釣り、アクセス数をあげるんです。テレビや新聞が写真を出していなければ“裏が取れていない”リスキーな記事になるので、適当な写真にモザイクをかけて掲載し、写真を入手しているように見せかけることもある」

 何かの事件が発生し、テレビなどで被疑者や被害者の名前が報じられた直後、その名前をネット検索してみると上位にヒットするのはまとめサイト、トレンドブログばかりだ。サイトの運営者はニュースを逐一チェックし、裏が取れていないほとんど憶測ともいえる情報を即座にアップするだけでなく、ネット上の噂などを切り貼りしつつ、情報操作、印象操作も行い、過激で耳目の集まりやすい記事を作る。全てはアクセス数、すなわち収益のためだ。

「今回NHKが訴えたサイトは開き直っているようにも見えますが、サイト運営者の情報開示請求がなされた時点では、まさか訴えられるわけがないと甘く見ていたのでしょう」

 こう語るのは、筆者が以前取材した元「まとめサイト」運営者。ネットの知識が乏しかったために、筆者の簡単な調査で氏名や住所、電話番号から勤務先までを突き止められ「(同じことは)マスコミもやっているだろう」などと反論してきた。今では、まとめサイトに関わる馬鹿馬鹿しさが身に染みており、運営から身を引いている。

「まとめサイトの運営者は、ほぼ全員が高額な情報商材を買わされた情報弱者で、被害者の側面もある。ただし、自身でやっていいことと悪いことの判別がついていない人が多く“これくらいならいいだろう”と楽観的にまとめサイトの運営を行なっている。数十万、中には数百万出して情報商材を購入している手前、少しでも儲けないといけないと、悪質なことも平気でやるようになる。記事の削除依頼がきても無視するし、訴えられそうになって初めてことの重大さに気がつき、逮捕されるのではないかと震えた末に、全面的に非を認めて示談金を払うんです」

 悪質なまとめサイト運営者が「被害者」とは、到底受け入れ難い身勝手な論理だが、まとめサイトが出来ては消えを繰り返しながらもなくならない背景には、こうした人々の存在がある。彼らは副業やアフィリエイトを奨励する世の中の雰囲気に煽られ、開いたスマホでレコメンドされる一部のグレーなYouTuberたち、非合法商売を奨励するような連中から「簡単に稼ぐ」「効率的に稼ぐ」と甘言を繰り返されて惑わされた挙句、リアルで大金を支払ってしまう。元手をかけたのだから“成功”しなければと追い込まれた挙げ句、他人を傷つけてでも金を得ようと、デマを拡散するような記事を作成する。その幼稚で浅はかな転がり落ち方には同情を禁じ得ないが、自身のやったことに対する責任はしっかり負わなければなるまい。

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