「欧米では、1950年代後半には被害者問題への取り組みが始まり、1960年代には運動が起こり、1970年代には法整備が始まります。国連でも議論が始まり、1985年に通称・国連被害者人権宣言が採択されます。日本は『あすの会』が設立されたのを機に、ようやく目が向けられるようになったばかりです」
その諸澤さんは、被害者報道は匿名で、というのが原則だと説く。
「加害者は実名、被害者は匿名というのが国際的なコンセンサスです。実名報道を考える時には公共性があるかどうかで判断しますが、事件や加害者の情報は“公共の利害に関する情報”だが、被害者情報には公共性がないというのが国際的な原則です。
日本では、2004年に成立した『犯罪被害者等基本法』の基本理念に『個人の尊厳が重んじられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利がある』と書かれています。被害者は一人ひとり違い、知る権利があると同時に、プライバシーと名誉を守られる権利があるのです」(諸澤さん)
一方で、国連の取り組みは実名報道できる社会になることが目的だという。
「今の日本でなぜ匿名を希望するかというと、実名を出してはあまりに不利益を被るから。ですが、アメリカでは被害者も加害者の関係者なども顔出しで取材を受けたり裁判で証言したりできる。社会全体が温かく優しいため、隠す必要がない社会だからできること。
国連の究極の目的は、人間の尊厳を大切にする社会。そうなった暁には、匿名である必要はないんです。そうなっていない社会だから被害者に不利益が時として起こる。今の日本はまだその状態にあるため、実名であれ匿名であれ、被害者や遺族一人ひとりの意思を尊重すべきです」(諸澤さん)
津田さんも事件を通じて、「言論の自由、報道の自由はありますが、自分の自由で人の権利を侵したり自由を脅かすことは暴力だと思います」と語っている。
※女性セブン2020年2月20日号