しかし40歳を過ぎ、そんなブラック企業すら正社員では採用されなくなった。
「転職回数が多いのもあるけど、専門性がないんですよ。資格も簿記くらいはあるけどアラフォーのおじさんがそんなの自慢したって笑われるだけ。あと実績もない。盛りに盛ってもバレちゃう、面接は得意なはずだったのに、若い時とは違ってキャリアや管理能力を問われる。そんな経験ないっての」
それに加えて専門学校卒だ。大学進学率が50%を越える現在、さしたる学歴も実績もない転職回数の多いアラフォーを採用する会社は少ないかもしれない。
「いまさら職安でキャリア形成がどうたら説教されてもそんなの教わらなかったよ。履歴書なんか転職回数多すぎて短いのとか非正規は端折ってる。社会保険加入前やそんなのないようなとこは端折れって職安でも指導されたし、背に腹は変えられません」
それでも清水さん、上場企業や立派なビルにこだわりがあるという。
「ブランド好きなんですかね、嫌な地元の連中のことを考えると、東京の上場企業で働く自分ってのが支えというか。別に何かをしたいとか、何かになりたいとかでサラリーマンやってるわけじゃないですし、昔から夢とかないんです」
清水さんは大学全落ちで専門学校に行った過去を知る地元へは絶対帰りたくないと語る。住まいも会社の寮や都内のワンルーム暮らしだったが、家賃相場の安い千葉に越してきた。清水さんが、転職回数が多いとはいえ大手企業を渡り歩いてきたことは強みだろう。むしろこの飄々とした感じが自信たっぷりに見えることも、これまでの面接などに有利に働いたかもしれない。それなりの社会性もある。
どの会社でも定着できるほどの実績は上げられなかったと言うが、それはブラック企業が働く人を使い捨てるときの常套手段だ。転職するのももう限界と言うが、それはまだ早い、むしろ我慢のしどころだろう。40歳を過ぎると実績あるスーパーマン以外、転職市場が厳しいのはみな同じだ。
「通信制大学とかどうですかね?」
清水さんに問われ、私は止めておいたほうがいいと言った。ステップアップのために通信制大学に行くという手段は、生涯学習や資格、教養目的ならともかく、40歳を過ぎて転職やビジネスキャリアの再構築を目的に行くのは現実的ではない。ましてや在職中ならともかく、清水さんは求職中の身、賃貸暮らしで日々の生活もある。