スポーツ

野村克也さんがクイック考案は本当か? 江本氏が明かす真相

野村克也さんとクイックモーション誕生秘話(撮影:山崎力夫)

 84歳で亡くなった野村克也さんが、初めてプロ野球で監督に就任したのは1969年オフのこと。34歳の若さで、南海のプレイング・マネージャーに就任した。その野村さんは生前、「江本(孟紀)、門田(博光)、江夏(豊)の『南海の3悪人』には苦労した。おかげで指揮官として成長できた」とよく口にしていた。名前が挙がった江本氏は1972~1975年に南海で活躍し、1973年には野村・南海として唯一のリーグ優勝にエースとして貢献した。江本氏が間近に見た、野球人・野村さんの姿とは──。

 * * *
 ボクが南海にいた時代から、ノムさんは熱心にミーティングを重ねていました。選手を集めては、「野球はただ打って、走って、投げているだけじゃないぞ。それだけじゃ差は埋まらない。それをカバーするものがある」と真剣に語り、「第1球はピッチャーとバッターのどっちが有利か。理由も書け」といった設問のペーパーテストもありました。

 試合前のバッテリーミーティングでは「初球に何を投げる?」から始まって、「ストライクかボールか?」「2球目は?」「追い込んだら何を投げる?」と延々と続くわけです。ただ、細かい話はあくまで試合が始まる前まで。教室で野球をするわけじゃないから、計算通りにはいかない。それはノムさんもわかっていたと思います。それでも、相手の何倍も攻略法を練っていると、それが試合中の自信とゆとりになる。

 だから、ノムさんは徹底したデータ野球というよりは、「オレについてこい」というタイプであった印象のほうが強いですね。表向きは緻密な野球を掲げつつも、実際には巧みな演出などで選手の心を掴み、自ら動くように仕向ける、人心掌握術に長けた人だったと思います。

 ノムさんが選手に慕われていた好例として、こんな話があります。当時、パ・リーグでは阪急が黄金時代を築いていましたが、そのリードオフマンである福本豊の盗塁を阻止するために、ノムさんがクイックモーションを考案したという有名なエピソードがあるでしょう。実際には、ベテランになったノムさんの肩が弱くなり、それをカバーしようと投手陣が率先して始めたものなんです。

 さらにノムさんが40歳に近くになると、右肩と右ヒジがボロボロになり、投手がクイックで投げてもアウトにできなくなった。だから最後には、福本が出塁したら、ボクはわざと大きなモーションで投げて、盗塁を許していた。そうすれば、ノムさんの責任ではなく、ピッチャーの責任になるでしょ。選手がそうやって守ってやろうとしたのは、ノムさんの人柄があったからだと思いますよ。

関連記事

トピックス

伊藤沙莉は商店街でも顔を知られた人物だったという(写真/AFP=時事)
【芸歴20年で掴んだ朝ドラ主演】伊藤沙莉、不遇のバイト時代に都内商店街で見せていた“苦悩の表情”と、そこで覚えた“大人の味”
週刊ポスト
総理といえど有力な対立候補が立てば大きく票を減らしそうな状況(時事通信フォト)
【闇パーティー疑惑に説明ゼロ】岸田文雄・首相、選挙地盤は強固でも“有力対立候補が立てば大きく票を減らしそう”な状況
週刊ポスト
新アルバム発売の倖田來未 “進化した歌声”と“脱がないセクシー”で魅せる新しい自分
新アルバム発売の倖田來未 “進化した歌声”と“脱がないセクシー”で魅せる新しい自分
女性セブン
大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
大ヒット中の映画『4月になれば彼女は』
『四月になれば彼女は』主演の佐藤健が見せた「座長」としての覚悟 スタッフを感動させた「極寒の海でのサプライズ」
NEWSポストセブン
中国「抗日作品」多数出演の井上朋子さん
中国「抗日作品」多数出演の日本人女優・井上朋子さん告白 現地の芸能界は「強烈な縁故社会」女優が事務所社長に露骨な誘いも
NEWSポストセブン
国が認めた初めての“女ヤクザ”西村まこさん
犬の糞を焼きそばパンに…悪魔の子と呼ばれた少女時代 裏社会史上初の女暴力団員が350万円で売りつけた女性の末路【ヤクザ博士インタビュー】
NEWSポストセブン
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏による名物座談会
【江本孟紀×中畑清×達川光男 順位予想やり直し座談会】「サトテル、変わってないぞ!」「筒香は巨人に欲しかった」言いたい放題の120分
週刊ポスト
大谷翔平
大谷翔平、ハワイの25億円別荘購入に心配の声多数 “お金がらみ”で繰り返される「水原容疑者の悪しき影響」
NEWSポストセブン
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
女性セブン
伊藤
【『虎に翼』が好発進】伊藤沙莉“父が蒸発して一家離散”からの逆転 演技レッスン未経験での“初めての現場”で遺憾なく才能を発揮
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン