• TOP
  • コラム
  • トヨタの「スマートシティ構想」がスマートではない理由

コラム

2020.03.05 07:00  マネーポストWEB

トヨタの「スマートシティ構想」がスマートではない理由

トヨタが作る「Woven City」は成功するか?(イラスト/井川泰年)

 企業がスマートシティの実証都市を立ち上げる──トヨタ自動車の「コネクティッド・シティ」プロジェクトが、2021年に着工される予定だ。はたしてこのプロジェクトにどのような意味があるのか。経営コンサルタントの大前研一氏が読み解く。

 * * *
 トヨタ自動車は、2021年初頭から静岡県裾野市で、あらゆるモノやサービスがつながるスマートシティの実証都市「コネクティッド・シティ」プロジェクトを着工する。

 今年初めにラスベガスで開催された世界最大の電子機器見本市「CES2020」で豊田章男社長が大々的に発表した構想で、同社のHPによると、2020年末に閉鎖予定の東富士工場の跡地を利用して、「Woven City(ウーブン・シティ)」と名付けた街づくりを進める。「Woven City」とは「網の目のように道が織り込まれ合う街」の姿を意味している。

 このプロジェクトの目的は、人々が実際に生活するリアルな環境の下、自動運転、MaaS(*)、パーソナルモビリティ、ロボット、スマートホーム技術、AI(人工知能)技術などを導入・検証し、新たな価値やビジネスモデルを生み出し続けることだ。

【*マース、Mobility as a Service。ICT(情報通信技術)を活用することにより、自家用車以外のすべての交通手段による移動を1つのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ新たな「移動」の概念】

「スピードが速い車両専用の道」「歩行者とスピードが遅いパーソナルモビリティが共存する道」「歩行者専用の道」が網の目のようになった街をつくり、初期はトヨタの従業員やプロジェクトの関係者ら2000名程度の住民が暮らすことを想定しているという。

 だが、トヨタが何を考えているのか、私には理解不能だ。要は、次世代の自動車技術やサービスの新潮流であるCASE(*)の実験を行なうわけで、実験する場所がないよりはあったほうがよいだろうが、今やCASEにおいて技術的に未解決の問題は割と少なく、実際の人々の生活の中に入り込んだ時に安心できるかどうかがテーマになっている。

【*ケース、Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared(シェアリング)、Electric(電気自動車)の頭文字をとった造語】

 たとえば自動運転の場合、すでに想定内の事態に対応できるレベルは超えている。しかし、アメリカではこれまでに死亡事故が3件(テスラ2件、ウーバー1件)発生している。グーグルの子会社ウェイモの自動運転車も衝突事故を2回起こしている。もちろん事故はないほうがよいに決まっているが、誤解を恐れずに言えば、想定外の事故が起きなかったら技術の進歩はない。

 現実の道路では、ブレーキとアクセルの踏み間違い、信号無視、飲酒運転、逆走、後ろから極度に車間距離を詰めるあおり運転、わざと低速走行をして後続車に迷惑をかける逆あおり運転など、様々な出来事が起きる。しかし、そういう想定外の事態にどう対応すればよいのか、という実験は、モデル都市ではなく生臭い現実の都市でなければできない。エンジニアが考えうる想定外、つまり「プログラミングされた想定外」は、想定外ではないからだ。

 同様の疑問は、シェアリングについても言える。

 トヨタはアメリカなどで普及しているウーバーのような「相乗り」を想定しているのかもしれないが、「Woven City」に移住してくる人々はトヨタの従業員やプロジェクトの関係者だから、そこでの生活は基本的に向こう三軒両隣が仲良しの“理想型”に近いものになると予想される。その場合、近所の人たちと1台の車に相乗りすることに、さほど抵抗はないだろう。

 だが、現実の都市では隣人と不仲だったり、近所と付き合いがなかったりするし、他人との相乗り自体を拒否する人も少なくない。だから、ボストンのローガン国際空港などでの実証実験では、同じ方向に行く人を見つけるマッチングが意外と難しいことがわかっている。そうしたことも想定できなければ、リアルな環境とは言えない。

 さらにMaaSで公共交通機関と自動運転を組み合わせると、メインの移動手段はバスや電車になるから、東京や大阪の都心部と同じように自家用車はどんどん不要になる。

 MaaSやCASEが進展して次のフェーズに行けば、自動運転のバスやタクシーが指定した時間に自宅まで迎えにきて、最寄り駅や会社や学校などの目的地まで運んでくれる。そうなると、街を走っている自動車の台数は、おそらく現在の10分の1くらいになると思う。余資が山ほどあるトヨタが何をしても屋台骨はすぐには揺らがないだろうが、「Woven City」を建設するよりも、その未来に備えてリストラや事業転換を真剣に考えることのほうが豊田社長の優先順位ではないだろうか。

●おおまえ・けんいち/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊は小学館新書『経済を読む力「2020年代」を生き抜く新常識』。ほかに『日本の論点』シリーズ等、著書多数。

※週刊ポスト2020年3月13日号

関連記事

トピックス