「正直、自分で決めるしかない。僕の場合で言えば、感覚的ですが、俳句を詠んでいるんだという気持ちで詠んだものになってないとダメですね。説明しにくいんですけど、ただ面白いだけとか、単なるあるあるになってるものは僕の中ではちょっと違う」
ただ、そのボツ作品も無駄にはならないと又吉は話す。
「エッセイを書かなきゃいけないとき、何のネタも思い浮かばなかったら、ボツネタから広げて書くこともある。なので自由律は僕の記憶ノートみたいな役割を果たしてくれてもいるんです」
本書では1ページ1句の場合と、1ページ4句の場合がある。
「リズムを変えないと読み飛ばされてしまう気がした。自由律は『わかんない』ってよく言われるので。『だから、何?』とか」
『蕎麦湯が来ない』の中から、印象的な句をいくつか並べてみる。
〈夜空が赤い辺りに東京タワーがある〉(又吉)
〈素振りをする少女の未来に光あれ〉(せきしろ)
〈また資格の本が捨てられている〉(せきしろ)
「だから、何?」でいい。自由律俳句は、いわば感情の塗り絵だ。何度も吟味し、自分の好きなように気持ちを重ねればいいのだ。
◆取材・構成/中村計
【プロフィール】
せきしろ/1970年北海道生まれ。文筆家。主な著書にエッセイ集『去年ルノアールで』『たとえる技術』や小説『逡巡』などがある。西加奈子さんとの共著『ダイオウイカは知らないでしょう』では短歌に挑んでいる。
又吉直樹/1980年大阪府生まれ。芸人。著書にエッセイ集『東京百景』『夜を乗り越える』や小説『劇場』『人間』がある。2015年「火花」で芥川賞を受賞。堀本裕樹さんとの共著『芸人と俳人』では俳句に挑んでいる。
※女性セブン2020年3月26日・4月2日号