「おれ、ポンコツじゃないですか。そんなおれがM-1の最後の9組に残ったんですよ。いつもネタも作ってくれて。全部、賢さんのお陰です」
舞台の真裏に移動してからというもの、緊張しっぱなしだった真栄田とは対照的に、内間は感動しっぱなしだった。セットの隙間から、決勝のきらびやかなステージがちらりと見えた。その光量と、豪華な審査員たちと、客の笑い声。それらが迫ってきて、胸が一杯になった。内間が振り返る。
「感動し過ぎて、気負うよりも『ありがとう』がわーっと強くなってきて。これは誰のお陰かなと思ったんです。ああ、相方のお陰だと。うちらのコンビは、相方が120パーやってくれてたんです。ネタをつくる、演技する、演出をする、おれのメンタルトレーナーもやる。1人で三役も、四役もやってたんです。それなのに、おれは相方にありがとうを言ってなかったなと思って。いつ言おうかなって。今じゃないな、でも、明日でもないなと」
一瞬、迷った。だが、そう思った直後には、口にしていた。真栄田はいつもの真栄田ではなかったが、ある意味で、内間もいつもの内間ではなかった。
「おれ、あのとき、初めて調子よかったんです。普段は緊張しいで、取材とか打ち合わせですら緊張してたんです。決勝の日も、最初は緊張してたんです。そもそもお客さんに対して不信感もあって。どうせ、おれらのネタはわかってくれないだろうとか勝手に思ったりしてたんです。でも、あのときは、お客さんがピカピカしてて、優しそうに見えた。お花畑にいるような……。いつも余計なことばっかり考えてしまうんですけど、それらが全部抜け落ちて、残ったのはありがとうだけでした。たぶん、もともとお客さんは優しかったんでしょうね。おれがひねくれてたから、信じられなかっただけで」(内間)
緊張する内間を真栄田がほぐすというのがいつもの構図だった。ところが、一世一代の大舞台を迎え、役割分担が逆転していた。内間は、真栄田の図星を突いた。