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コラム

2020.04.15 07:00  マネーポストWEB

テレワーク導入であぶり出される「リストラ対象者」の不安

コロナ蔓延後に国内で経営破綻した企業の数々

 人々の暮らしが、新型コロナウイルスの蔓延によって一変した。感染拡大が続き緊急事態宣言も発令された東京都をはじめ、全国各地で、3月2日から続いていた一斉休校を5月のゴールデンウイーク明けまで延長する自治体が相次いでいる。子供を持つ親の悲鳴はそこかしこから聞こえてくる。しかし、元の生活に戻るどころか、様変わりした日常は、元に戻る気配がない。

 マスクの買い占めや、電車内で咳をした人をほかの乗客が叱責するなど、ちょっと前なら考えられないような「コロナパニック」。そして志村けんさん(享年70)の訃報が日本中を悲しみの渦に突き落とした。「コロナにかかったら、本当に死んでしまうんだ」と、多くの国民に気づかせることになり、「対岸の怖いウイルス」だったものが自分たちのすぐそばに迫っていることを思い知らされた。

 駅などでは「ウイルス対策のため、従業員はマスクを着用しております」と無機質なアナウンスが響き、スーパーや薬局の従業員はマスクだけでなく、手袋もして接客する。人がまばらになった東京・新宿の街頭ビジョンでは、その日の感染者数・死者数を報告する映像や、小池百合子都知事が「ロックダウン(都市封鎖)」の可能性を示唆する映像が流れ、マスクをつけた酔っぱらいの若者が「この人、同じことしか言わないね」と毒づく。まるでSF映画に登場する「ディストピア(崩壊都市)」のようだ。

 ほんの数週間前までは「都市封鎖なんて無理」と世界中の誰もが高をくくっていたはずだ。ところが、瞬く間に感染が拡大したアメリカやヨーロッパでは、実際に都市封鎖が相次いでいる。家の外に出るだけで罰金を科されたり、警棒を持った警官に追われたりする日常が、いまや“ふつう”になっているのだ。

 あなたも世界中の人々と同じように「こんなこと、本当にあるんだ」「もう後戻りできないのかもしれない」と、心のどこかで気づき始めていないだろうか。

◆テレワークが“首切り選別システム”に

 2月のある日、都内で働く会社員のAさん(38才)が目覚めると、喉に違和感があった。体温を測ると37.2℃。それでも、解熱剤をのんでマスクをつけ、何食わぬ顔で出勤した。

「コロナウイルスが流行っているのは知っていたけど、中国の話でしょう? テレワークができないわけではないですが、やっぱり会社に行かないと“働いた感”がない。周りにうつしたり心配をかけるわけにはいかないけれど、それと同じくらい、働かないわけにもいかない。デマに惑わされた人たちがトイレットペーパーを買い占めているから、早く仕事を終わらせて、在庫のある店を回ってから帰らないと」(Aさん)

 ちょっと熱が出たくらいでは会社は休めない──“コロナ前”なら、多くの日本人がAさんの考えを理解できただろう。だが、現在、そして“コロナ後”は、人々の意識は大きく変わる。接客や医療など、出勤が必要な職業を除き、テレワークを選択しない社員は迷惑がられ、社員に出勤を強制する会社は“ブラック企業”のレッテルを貼られることになる。働き方が大きく変わる一方、各地で買い占めを起こさせている“日用品が足りなくなる”などというデマは、これまで以上に増えると予想されている。精神科医の片田珠美さんが分析する。

「いま、“大切なものを失うのではないか”という“喪失不安”が日本中に広がっています。自分や大切な人の命を病気で失うことへの恐怖だけではありません。新型コロナウイルスによって、私たちは、仕事や家族の絆まで失いかねないのです。

 テレワークをするようになると、これまでは会社に行きさえすれば仕事した気になっていた人たちが成果を出せず、“仕事できないおじさん・おばさん”があぶり出される。つまり、リストラの不安におびえることになります」(片田さん・以下同)

 休業や失業で収入が激減し、失業者が街にあふれる可能性は高い。そうなると、自殺者の増加も懸念されるという。片田さんが続ける。

「テレワークや休業で一日中夫婦が顔を突き合わせているとストレスがたまり、やがて怒りに変わります。ウイルスや政府に怒りを直接ぶつけることはできないので、いつしか矛先が家族に向かう。すると、虐待やDVが増加します。阪神・淡路大震災や東日本大震災後は、こうした社会不安やストレスによるDVが増加しました。人は、受け入れがたいほどのストレスにさらされると、“どうして自分がこんな思いをしなければならないんだ”と怒りを感じ、次第に“他人を道連れにしてやる”などと、八つ当たりするようになるのです」

 すると今後も、愛知県蒲郡市の「コロナばらまき男」のように、復讐願望から攻撃的な行動に出る者や、「新型コロナウイルスはお湯で死ぬ」といったデマを流してうっぷんを晴らそうとする者が次々と出てくる。

 著書『サピエンス全史』で人類発展の歴史をひもといたイスラエルの歴史学者、ユヴァル・ノア・ハラリ氏は、日本経済新聞にこんな寄稿をしている。

《新型コロナの嵐はやがて去り、人類は存続し、私たちの大部分もなお生きているだろう。だが、私たちはこれまでとは違う世界に暮らすことになる》──

 日常を失いつつあるのは日本だけではない。世界中で感染拡大を続ける人類最大の危機をどうにか乗り切れたとしても、その先の“コロナ後”の世界は、明るいとは言い切れないかもしれない。

※女性セブン2020年4月23日号

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