スー:条件が変わると、「自分」がさらに露わになっていきますね。私は3対250と言われると、3人の犠牲を選ぶ選択が非人道的な気がしました。自分が個を尊重していない感じがするからです。じゃあ、これが3対5だったらどうか。その場合はもっと心の負担が軽く功利主義=「5人」という数の多い方を選べるような気がする。つまり、ここでは人を数として見ているのか、個を尊重しているのかということも同時に問われているんだな、と。

玉井:トロッコ問題について考えることは、自分自身がどういう存在かに気づいていく過程でもあるんですね。

ジェーン・スー氏

スー:で、私は最後にはこう思ったんです。きっと自分は最後の最後まで悩んで、最後の瞬間に勢いで「えい!」と選ぶだろうな、って。

玉井:その場の勢い!?

スー:ええ。どちらも正解だし、同時に正解じゃない。

玉井:はい。

スー:だったら、「自分の選んだ方の答えを正解にしていく」ことが大切じゃないですか。

玉井:おお!

スー:トロッコ問題と同じように、ラジオの人生相談でも「どちらが正しいか」と聞かれて、間違いなく一方を正解だと答えられる相談ってほとんどないんです。そんなとき、私は「自分の選んだ方の答えを正解にしていくんだ」という答え方をするんです。例えば私は昔、ものすごい失恋をしたのですが、その失恋の話を書いたり喋ったりすることで、100万円くらいは稼げたと思います(笑)。失恋の体験を主体的にプラスに変えてきたのは、「失敗だった」「私はダメ人間だ」という自己認識にしたくなかったからです。

 どんな選択をしても、その結果もたらされる苦労や悩みに自分は耐えきる――そうやって自分を信頼できるようにしていくことが大切なのかなと。

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