『JIN』だけではありません。例えばNHKBSで今年3月まで1年間再放送されて話題となった連続テレビ小説『おしん』。当初、単なる貧乏といじめの物語だと誤解していた私自身も全編逃さずに見ることになりました。見ざるを得ない迫力と展開力がこのドラマの中にありました。
まず役者が凄かった。『おしん』といえば幼少時の小林綾子が有名ですが、中年のおしんを演じた田中裕子、老年期まで演じた乙羽信子、その女優リレーの迫力たるやアッパレの一言。眼を離せない勢いで、魂を揺さぶられた視聴者も多かったはずです。
時代背景は明治・大正・昭和の激動期。貧農から出発したおしんは、商才に恵まれ飲み屋、魚屋、そしてスーパー経営へと時代と共に新業態を展開していく。ビジネスストーリーとしても面白い上、労働運動や反戦思想も絡んで社会が描かれ、結婚による嫁と姑の対立は文化的摩擦の物語として活写されました。そう、この再放送は、時代の中に風化していた「宝物」を再発掘する好機になったのでした。
一方、『JIN』の場合は比較的新しい作品のため、視聴者の多くは初見ではなく、物語の内容も憶えている。「結末」も知っている。ですから再放送を見る時は「筋書き」を追う以上に、このドラマがたしかに放っていた独特の空気感、役者の演技の迫力、世界観の魅力にもう一度触れ没入したい、感動したい、という気持ちで画面に向かったのではないでしょうか。
今回の成功を踏まえて、今後はさらに再放送が増えていくはず。実際にTBSは1月期に放送されたばかりの竹内涼真主演『テセウスの船』を、5月11日から再放送しています。そう、優れた作品は一回見たからといって消費し終えることはできない。見るたびに発見があり気付きがあり楽しい。そんなドラマが見たいし、これからも生まれてきて欲しい。個人的には『JIN』を手がけた監督・平川雄一朗氏の過去作品『天皇の料理番』の中で初々しい料理人を演じた佐藤健の姿を、もう一度見てみたいものです。