「私らのような職種は、大阪府の休業要請に対する支援金ももらえなくて仕方ないと思っていました。ところが大阪府の吉村洋文知事は決断してくれた。私はね、涙が出ました。支援金は各店舗に50万円で、全店舗あわせればおよそ8000万円となる。経営が苦しいお店もあると思うんです。ですが、支援金を原資とした抗体検査の実施を決めました」
飛田新地の経営者だけでなく地元商店街やPTAも抗体検査の運営委員会に加わり、出前を取る飲食店やおしぼり業者をはじめとする取引先、地域住人も無償で検査が受けられるように8000人分の抗体検査キットを準備した。そして5月24日、第一陣となる150人が検査を受けたのだ。
「もし集団感染が起きたら、この街は一瞬で滅びてしまう。きちんと感染リスクと向き合う姿勢をお示しする必要がありました。また、我々は地域との共存なくしては存在できない職業ですので、地元の方にも検査を解放するのは当然だと考えております」(徳山氏)
もし被検者に陽性反応があれば保健所に連絡を入れ、PCR検査などを実施してもらうように仲介するという。
◆危機感はHIVの時以上
開業から100年を超えた飛田新地の歴史は、まさに感染症と闘ってきた100年である。開業の翌年に流行したスペイン風邪に始まり、肺結核や1980年代に初めて国内感染者が出たHIV、そして今回の新型コロナ──。
料理組合が拠点とする飛田会館は大正12年の建造で、2階には淋病などの性病や肺結核を検査した部屋が現存する。100畳近い室内には換気をするサーキュレーターが設置されているだけでなく、取り外しが可能な床もある。床下に医師が入り、医師の頭部をまたぐように女性が立ち、性病検査を行っていたのだ。別の組合幹部が明かす。