「危機感としては、HIVの不安が襲った時以上です。今は提灯を管理する部屋として使用しているこの元検査室で、今回の抗体検査も行おうとしたんです。しかし、建物が古いのと、一般の方にも検査していただくということで、すぐ近くにある防災会館で実施することを決めました」
最近の飛田は「アルバイト感覚で働く女の子が多い」(前出・30代経営者)とも言われており、ならばこのコロナ禍で他業種に転身した女性も多かったのではないか。
「それが、ひとりもいなかったんです」(同前)
今回の取材を進める中で、計8 人の経営者に話を聞いたが、いずれの店舗でも休業を機に辞めた女性はひとりもいないということだった。両親の後を継いで経営者となった年輩の女性が打ち明ける。
「ひとりひとりに『困ってることあらへん?』と訊ねましたが、『困っていない』と話す女の子がほとんどでした。『早くおばちゃんらに会いたい』『ママに会いたい』って言ってくれてね。飛田では短時間のサービスで、他の風俗ほど濃厚な接触がない。だから今はじっと我慢して、再開を待ってくれているんやと思います」
まもなく飛田新地の提灯に明かりが灯る。
●取材・文/柳川悠二(ノンフィクションライター)
※週刊ポスト2020年6月12・19日号