とはいえ、麻疹(はしか)や天然痘など、人類がこれまで戦ってきた感染症についての経験から、抗体があるほうが安心だという考え方は根強い。そのため新型コロナウイルスについても抗体検査を受けたいと求める声は大きく、日本国内でも企業が従業員に抗体検査を実施したり、検査キットの輸入、そして販売を宣言する事業者も出始めた。ところが、である。前出社会部記者がそこにある懸念を説明する。
「抗体があれば安心、というような風潮がありますが、実はまだそこまで過信して良いものか、疑問もあります。6月1日から、厚労省が東京、大阪、宮城で新型コロナウイルスの抗体検査の実施を開始しました。1万人を無作為抽出し行われるもので、あくまで抗体を有している人がどれくらいいるのかを調査する目的。陽性だったら安心、ということではないのですが、誤解も生まれたのか、自分も受けたい、という人が多いのです」(大手紙記者)
緊急事態宣言が解除され、徐々に戻ってくる日常。人との接触機会も当然増えるため、自身に抗体があれば、安心して以前と変わらない日常を送れるのかもしれない、そう考える人が多いのは無理もない。まだ確定していないが、出入国制限を緩和するためにPCR検査や抗体検査でコロナ陰性を証明する方法も検討されていると報じられている。それなら早めに証明書をほしいと考えるかもしれないが、しかし、ここに落とし穴がある。
「実は今、一部の医療機関でも保険適用外の抗体検査が行われており、大変な人気のようです。確かに、抗体があると結果が出れば、いくらかかかりにくいとは言えるかもしれませんが、絶対に安心とは言えないし、ソーシャルディスタンスなどを意識した、新しい生活様式を徹底する必要はあります。また、検査の結果が陰性=抗体がないということで、必要以上に感染を恐れるのも違います。この辺りをしっかり説明せず、あたかも抗体が安心といった雰囲気の元、抗体検査を勧める医療機関もあるんです」(大手指揮者)
では冒頭のチラシはどうか。人気の「抗体検査」を手軽に行えるキットであれば、価格は1万円弱と決して安くはないが、飛びつく人もいるはずだ。調べたところ「抗体検査キット」を販売する業者は、チラシだけでなく、店頭販売や訪問販売、ネット通販をも駆使して広く販売活動を行なっていたが、問い合わせを行なった山縣さんは、自身が感じた強烈な違和感を筆者に語ってくれた。
「問い合わせたところ、キットには採血をする器具がついていない、というんです。検査には採血が必要なはずなので、ではどうするのかと聞くと、家にある針とかでやってくれと。これには驚きました。ばい菌が入ったらどうするのかと聞いても、アルコールで消毒してくださいなどと言われて。一気に胡散臭くなんて買うのはやめました」(山縣さん)